あっちゃん、やらかす

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あっちゃん、やらかす

ジャケットを放り投げてソファに転がっていると夢を見た。 着慣れない服で友人たちとバカ騒ぎ。みんなが『おめでとう』って、言ってくれた。お姫様みたいな格好の彼女にケーキを食べさせてもらって、誰かが胴上げしようって言い出して俺が宙を舞って……あ、なんか気持ち悪い。 「あっちゃん、大丈夫? お水飲める?」 顔を横に向けると、花柄のエプロンをつけた彼女がグラスを持っている。 体を起こして受け取ったグラスに口をつけた。冷たい水が喉を通り胃に落ちると、自分がどこにいるか徐々にわかってきた。 「ちゃんと帰ってこれたのか。すごいな、俺」 「芳樹くんが送ってくれたんだよ。お酒弱いんだから気をつけてよ」 またあいつに迷惑かけたか。結婚してからも変わらないなあ。 ……結婚。 そういや俺、やっと結婚したんだよ! ちょっと前に聞いた教会の鐘が頭のなかで響く。 「へへへ~」 「どうしたの?」 「幸せでしゅか? ねえ、幸せでしゅか?」 「もう、またそのセリフ? 酔っぱらうといつも聞いてくるよね。うん、幸せだよ」 「あっちゃんも幸せ~! だからチュウしよう」 音を立てて軽くキスすると、甘ったるい高揚感が唇から全身に広がっていく。 ああ、好きな人とのキスは何回しても飽きない。 「もっとする、チュウする!」 「はいはい」 彼女が顔を背けるまで俺はキスをねだった。 「そうだ。お土産買ったんだ!」 玄関に行くと下駄箱に置いてあるオレンジ色の紙袋を取った。リビングに戻ると彼女に手渡す。 「これ着て結婚式しよう!」 「結婚式ならもうしたでしょ? ……え、ちょっと、なんでこんなの……あっちゃん、起きて、あっちゃん!」 「チュウしてくれなきゃ起きないもん……」 彼女に揺さぶられたけれど、ソファに頭を乗せて俺は目を閉じた。 ……鳥の声がうるさい。スズメかな。 起き上がると俺はベッドにいた。カーテン越しに差す朝陽がまぶしくて何度か瞬きした。 あれ、リビングで寝たんじゃなかったっけ。記憶がないということは、また彼女に運んでもらったのか。しかもパジャマを着せてくれたようだ。 昨夜は、デザインした広告が名のある賞を獲ったから、浮かれてみんなと飲んでしまった。 酔っぱらうたびに嫁さんに助けられるなんて、困った旦那だよな。二日酔いになったことはないがすぐに酔いが回る。飲みすぎないようにしないと。 横を見ると、彼女が頭の半分まで布団をかぶって寝ている。 こういうところがかわいいんだよな。はじめていっしょに寝たときは驚いた。 『頭までかぶらないと眠れない』って言っていたけれど、本当は寝顔を隠すためなんじゃないのか。 このままだと寝汗をかくんじゃないか? そう思い、布団をめくった。 「……な!?」 彼女が着ているのは、パジャマでもルームウエアでもなかった。 うすっぺらい桜色の下着だった。 いや、これは下着なのか。赤ちゃん用のワンピースみたいに丈がとても短い。同じ色のショーツが裾からのぞいている。 あ、でもこのリボンと透け感のあるフリルの組み合わせはデザインに使えるな。 サイドテーブルに置いてあるスケッチブックに鉛筆で線を描いた。だいたい描き終わると、ようやく彼女が目を開けた。 「……んー。おはよう、あっちゃん」 スケッチブックと鉛筆を置いて話しかけた。 「おはよう。エロい恰好して寝ているんじゃないよ。どうした、さびしかったのか」 「これ、あっちゃんのお土産だよ」 「お土産?」 そういえば、昨夜は居酒屋を出たあとでどこかの店に寄ったな。化粧の濃い店員に『新婚なんです。妻にプレゼントしたいです』って、俺が言った。芳樹が笑っていて、俺が財布を出して……。 「ああ~、確かにこんなひらひらしたのを買ったような気がする」 「やっぱり酔った勢いで買ったのかあ」 彼女は下着の裾を指でつまんだ。 「うれしくて着てみたけど、脱ごうかな」 「いや、そのままで!!」 抱きよせて、腰から背中にかけてのS字ラインを指で辿った。体をよじる彼女にささやく。 「うれしいということは、こういうの着て俺を誘いたかったんだろ? のってやるよ」 「違う! 誘おうなんて……!」 「もう隠すなよ。恥ずかしいことはみんなしちゃったんだから、素直になろう、な?」 彼女の左手を取ると、約束の証であるプラチナの結婚指輪がはめられている。俺のとおそろいのその指輪にキスを落とした。 「あっちゃん、まだ酔って……ん」 彼女が言い終わるのを待たずに唇を奪った。 「そうかもな。キスしたら酔いがさめそうだからもっとしよう」 下着をめくり、なめらかな肌に指を滑らせた。腰を撫でていると彼女が声を上げる。毎晩このベッドで聞いてる甘い声だ。 今日もキスだけでは終わらないだろうな。俺たちは、朝に似合わない深いくちづけを幾度も繰り返した。
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