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「まゆ大丈夫? こんな所で何してるの」
肩を揺さぶられて目を覚ますと、帰宅した母親が心配そうに真由美の顔を覗き込んでいた。
玄関で気を失って倒れていたようだ。
家の雰囲気が元に戻っている。妙に寒かったのも、嫌な気配も感じない。
真由美は安堵のあまり、わぁぁんと大声で泣いてしまった。
「もう、高校生にもなって。留守番がそんなに怖かったの? さ、中に行って。荷物持ってってくれる?」
母親に手渡された買い物袋を両手に持ち、真由美はしゃくり声を上げたままリビングへと歩いていく。
玄関タイルに落ちているスマホに、母親が気付いた。真由美の物だった。画面に大きな亀裂が入っている。
「やだ、中まで割れちゃってるかしら」
濡れてしまった靴を脱いだまま放置して、「ねえ、スマホ割れてるわよ」と娘を追いかけて母親も奥へ行く。
雨は変わらず激しく降っている。
濡れた靴の他にもう一人分、赤黒い染みがじわじわと広がりつつあった。
了
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