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これならママの買い物について行けば良かったと、後悔しても遅い。母親が外出してゆうに1時間は経つ。
真由美はスマホを手に持ち、キッチンへ移動した。さっきの動画を見た後から、首筋がゾワゾワと落ち着かない。廊下、キッチン、リビングと順に電気を点けた。大きな音を立てて冷蔵庫を開け、冷たい牛乳を一気に飲み干したついでに「あー」とわざとらしく声を出してみる。
「……ママまだかな」
照明では補えきれない不安感。テレビを点けようとリモコンに手を伸ばした時、真由美のスマホが鳴った。
『あ、まゆ、ごめんね。雨が降ってきちゃったのよ。ベランダの洗濯物を取り込んでおいてくれる?』
「うん、いいよ」
母親の声にホッとして、真由美はスピーカーで通話を繋げたまま二階に上がった。
「洗濯物入れたよ」
『ありがとう』
真由美が洗濯物を取り込むのを待っていたかように、窓を閉めた途端雨脚は強くなった。ザアッとベランダを叩く音の中、遠くの雷鳴が混じる。
「ママ、今どこ? どれくらいに帰ってくる?」
『いま七曲町の交差点。あら、警察。交互通行になってるけど何かしら?』
母親の言葉で、真由美の脳裏にさっきの動画が浮かび上がった。
『あら嫌だ、血が出てる』
母親が呟いた時、スピーカーからガガッと耳障りなノイズが流れた。
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