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真由美はその場にしゃがみ込んだ。ゴォッと突風が鳴り、バチバチと音を立てて雨粒が玄関ドアにぶつかる。
「マ、ママ、早くきて」
『あと五分で着くから』
普段なら「さっきもあと五分って言ったじゃん」と憎まれ口も出てくるのに、今はそんなことも頭に浮かばない。
真由美は両手で自分の顔を挟み、余分な物を見ないように玄関の磨りガラスを見つめた。
母親が車庫に入ってくれば、車の紺色が見えるはず。
あと五分。いつもの五分より、うんと長い。体が震える。エアコンも動いていない筈なのに、何故冷えるのだろう。それとは別に後頭部にあたる生温い空気は何なのか。
「はやくきてよぉ……」
恐怖に耐えきれず、真由美は頭を抱えた。
もう五分たってるはず。早く帰ってきて。そう真由美が強く念じていると、外でバタンと車のドアが閉まる音がした。帰ってきた。
早く顔を見たくて、腰が抜けてしまっている真由美はドアまで這いつくばって進んだ。
磨りガラスの向こうに臙脂色の服が見える。慌てて扉に手をかけた為に、スマホが滑り落ちた。
落ちた勢いで、玄関タイルの上でスマホがくるりと回る。拾おうと手を伸ばしたら、画面が事故動画に切り替わっていた。
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