1人が本棚に入れています
本棚に追加
それから、会ったのは5年後、
共通の友達の結婚式だった。
「久しぶり」
「あ....うん、久しぶり....」
披露宴が終わり、
結婚式も終盤にかかった頃、
シャンパンを片手に彼は話しかけてくれた。
5年前と変わらない優しい声、
人懐っこい笑顔、
スーツのせいか、大人びて見えた。
軽く会話をして、一区切り着いた時、
彼はふいに話題を変えた。
「ねぇ、今どこに住んでる?」
「僕は今、実家」
「あ、方向一緒だ
じゃあ一緒に帰ろう」
「わ....かった.....」
友人達の二次会の誘いを断り、
彼と一緒に帰った。
5年前のように。
高校の頃の懐かしい話を沢山した。
一緒に出かけたこと、
お互いの家に行ってテスト勉強をしていたこと、
それから....
「あー...あれもあったね」
「なに?」
「ほら、ハルが乗ってたバスが事故りかけたこと」
「あー あれね」
「ギリギリ車体が掠っただけで良かったけど、
1歩間違えれば大事故だったもんね」
「ねぇ、コウキ」
「ん?」
「その日、なにか言おうとしてたよね?」
「あっ....」
突然思い出す、
淡い淡い恋心。
足を止める。
急に胸の奥が苦しくなる。
「あ...れは....その...」
「コウキ」
あたふたしていると、
名前を呼ばれた。
そして
ハルは僕の右手の小指を優しく握りしめ、
こっちを真っ直ぐ見て、
「今からでも、遅くないよ...??」
あの人懐っこく、太陽みたいに優しい笑顔で
そう言った。
一瞬、
息が詰まった。
そして、その言葉の意味をようやく理解した。
「え...あ....」
「言ってくれないの?」
【ずるい...】
そんなこと言われたら....
「言うしか...なくなっちゃうじゃん....」
「んふふ」
いたずらっぽく笑うハル。
「ちゃんと言うから、聞いてて」
「わかってるよ」
1度深く息を吸い、
彼を真っ直ぐ見る。
「僕、ずっと、ハルのこと....
好きだ....!!!!」
「遅い、ばか....」
「ごめん....」
「俺も....」
「え...」
「俺も、好きだ
コウキが思ってるよりずっと前から」
ハルがそう言い終わる前に、
視界が歪む。
熱くなる目尻、
頬を伝う雫、
ボロボロと涙が溢れ出る。
「泣くなって」
ハルはそう言い
優しく人差し指で涙を拭ってくれる。
だが、涙が止まることはない。
「ほら、泣くなよ
せっかく両想いになれたんだから」
上手く声が出ず、頷くことしかできない。
喉から絞り出した声は掠れてしまっていた。
ただ、はっきりと彼には届いた。
「すきだ」
「うん、知ってる」
たったこの3文字を言うために、
一体何年費やしたのだろう。
ヘタレで逃げてばかりだった僕の逃避行が
やっと終わった瞬間だった。
「すき、ハルのこと..すき...っ」
浪費した時間の分を埋め合わせるように、
ただ「すき」と言っていた。
その度、ハルは「知ってるよ」と頷く。
「ほら、家帰ろう」
「ずっ...うん...」
鼻をすすって返事をする。
そしてまた足を進めた。
「コウキ....
抱えきれないくらいの『すき』をありがとう」
彼の独り言は誰にも聞こえることなく、
星の輝く夜空に溶けていった。
最初のコメントを投稿しよう!