拗らせ恋の紡ぎ方

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どうしたもんか、と戸惑っているとビー太郎は何を思ったのかマイクを置いてこちらを目指してスタスタと歩いてきた。 背が高い彼の一歩は大きくて、ぐんぐん距離が縮まってゆく。そんな状況に周囲はざわめき、「きゃあ」とあちこちで声があがった。 だが、そんな彼らの声や騒ぐ姿すら、流れる景色のようで、ビー太郎は気にすることなく真っ直ぐにブレずに最短距離でわたしの目の前に立った。おまけに全っ然笑えないほどのエガオで見下ろしてくる。 ちょっーーーっと!! ストップ、ストップ!ストーーップ!! こ、これ以上は、関係者以外立ち入り禁止よ!! 「聞いてる?」 「……き、聞いてるわよっ」 あまりにも普通に普通すぎることを言うから身構えた分、いくらか拍子抜けした。訝しげなビー太郎はまた確認を取る。 「本当?」 「本当よ」 「……っ!」 ビー太郎はわたしの左手を取ると片膝を付いた。騎士が忠誠を誓うように、手の甲に口付けてわたしを見上げる。 「なら、俺のお嫁さんになってくれる?」 ーーー俺、勝ち戦しかしない主義なのに、 いつぞやのビー太郎の言葉を思い出してハッとした。今、この瞬間の彼はまた、あの時のように少し不安になりながら、わたしに気持ちを訊ねてくれているのではないか、と。 どこか笑みを浮かべながらも目は真剣そのものだ。その中に若干の怯えを垣間見た気がした。 「……はい、よろしくお願いします」 気づいたら頭を下げていた。 なんだかすごく変な二人だけど、それでいい。チグハグだけど、恥ずかしいけど、これがわたし達だ。 こうやって手を伸ばして伸ばされて、残りの人生を共に歩んでいく。
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