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そう、あれは凛子の9歳の誕生日――。
その日、凛子には小学校を休ませて朝から二人で誕生日ケーキを作る約束をしていた。それから彼女がしたいと言っていた、たこ焼きパーティーもする予定だった。
凛子は凄く楽しみにしているようで、前日の夜なんかは私が仕事から帰ると「――早く明日が来ますように」って、既に布団に入って目を瞑っていた。
あんなに嬉しそうな凛子を見るのは久しぶりだった。
私はお風呂に入ってから、結局、日付が変わった頃にようやく寝付いたその小さな頭をそっと撫でていた。
携帯にショートメールが届いたの。
「今日の午後十三時、仕事が入りました。常連の砂田さんです。どうしても、この時間しか取れないようです。いつものように120分で自宅となります。連絡下さい」
私は寝息を立てる凛子を見ながら直ぐに「了解です」と返信した。
母親は続けた。
「後ろめたさは確かにあったわ。ただ、それ以上のものも上手く言葉には出来ないけど確かにここにはあるのよ」
彼女は自身の胸に掌を当てる。
「思うに、あなたはソーニャのように目の前の苦しみをだけを常に見ようとしている――相手がどんな人間か、どんな苦しみを持っているのか。そんなことをあなたは必要としない。ただただ目の前の苦しみだけに同情する。そこにあなたの愛が存在しているから。そうなのでしょう?」
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