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朝九時に目を覚ました凛子に、「――ごめん。ママの担当の患者さんが死んじゃったの。四時過ぎには帰って来るね。たこ焼きパーティーはそれからしようね。ケーキは凛子が好きなフルーツがいっぱい乗ったのを買ってくるね」
私はいくつかの嘘を付いた。
凛子は、「いいよ。仕事だもの。私、ママのお仕事好きだよ。頑張って。待っているね」
そう区切るように言うと、悲しそうに笑った。
――「凛子お誕生日おめでとう」
娘は聞こえてないのか答えてくれなかった。
私たちはセブンで買ったレトルトのハンバーグで朝と昼とを一緒に済ますことにした。
すると、食事中に「――ねぇママ……お膝に乗せて」9歳になったばかりの凛子が久しぶりに、そう言って抱き着いてきた。
私は鼻先を娘の後頭部へと擦りつける。
ああ、凛子の匂いがする。
――「いい、何かあったら電話しなさい。ママはお仕事で出られないかもしれないけど、必ず折り返すから。あと、それでも急な用事の時には、お隣の中嶋さんに連絡するのよ。いい、分かった」
凛子が玄関先で小さな掌を向けて微笑んでいる。バイバイ……少し戸惑っているようにも見える。
……本当に頭のいい子だ。
私はもう一度抱きしめたかったけど、ゆっくりとドアを閉めた。
フゥー……息を大きく吐いた。
「――それが最後ですね。」
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