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Side「B」 CASEその2 ~野球少年が聞きたかったこと~
「なあー、聞きたいことがあるのだけど……」
少年は立ったままで話しかけた。
そして、早口で昨日の決勝戦に何故あいつは来なかったのかと質問した。日焼けした肌が健康的である。
「――その前に少し、そのあいつについて教えて下さい」
「あいつは栗山翔太と言って、俺と小学校からバッテリーを組んでいる相棒だ」
少年は左手のキャッチャーミットを外して、丸い椅子に丁寧に置いた。そのピカピカのミットに、彼の野球に対する姿勢が伺えた。
「随分と手入れが行き届いていますね」
「当然だ。道具を大事にしない奴は上手くならない。野球の神様はそういうところを見ている。……翔太もそうだった。練習が終わるといつも丁寧にグラブを磨いていた。俺たちは最高のバッテリーだった。一緒に甲子園に行こうって約束だってしていた……」
少年はそのまま暫く黙ってしまった。
「……俺は小学6年の時に大阪からこの街に転校してきた。始めはここの雰囲気に馴染めずに、ずっと一人ぼっちだった。いつもバックネットの壁にボールを当てて遊んでいた。そんな時、翔太がキャッチボールをしようって言ってくれたのだ」
再び話し始めたその声は先程よりも弾んでいる。当時を思いながら話しているのだろう。
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