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エピソード
海が見える高台にその電話ボックスはあった。
風の音がよく響く広々とした平野にポツンと一つだけ佇んでいる。
黄緑色の頭をした透明のボックスの中に、同じく黄緑色の電話が丁度、大人の胸辺りのところに備え付けられている。誰もがよく知る馴染みのあれだ。
ただ、他と少しだけ違っていたのは、中に背もたれの無い丸い椅子があることだった。
――「ここでは誰もが皆、長い話になる」
誰かが言ったそうだ。だから必要なのだろうと今は納得している。
ああ、今日もまた誰かがそこに座って長話をするのだろう。
三十代のその母親は受話器を取る前から泣いていた。
よろけるように電話ボックスを開けると、置かれた丸い椅子には腰かけず、そのまま地べたにハの字を書いて座り込んだ。
両方の掌で顔を覆って、少し明るめの髪の毛の掛かる肩を震わせている。
すると、ようやく落ち着いたのか、すぅーと立ち上がり深呼吸をしてから受話器を取った――。
言い忘れたが、この電話ボックスには不思議な言い伝えがある。受話器を耳に当てると、ダイヤルを回さずとも必ず誰かが出るという。
そして話が終わり、ここを後にした者は二度とこの電話ボックスを見つけることが出来ないらしい……さあ話の続きをしよう。
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