Side「B」 CASEその1 ~最後に母親がしたかったこと~

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「――ねぇ凛子、どうしたの? 調子悪い?」  彼女は口を閉ざしたままで暫く私に視線を留めている。唇をギュッと噛んでいたのだろう変色しているようだ。  ようやく私に気付いた小さな瞳は揺れながら崩壊していく。  娘から聞いたのは隆弘に酷く頭を叩かれたという事実だった。  直ぐに隆弘を起こして問い質すと、まるで知らない顔をして、激しい口論の末に、突き飛ばされ背中を数回踏みつけられた。  初めて受けた暴力に随分と戸惑っていると、彼は物にもあたったし、部屋も滅茶苦茶にした。  何だろう、目の前で癇癪を起した子供を見るようだった。  それからは、たがが外れたように、私や娘に暴力を振るうようになっていく。特に酷かったのは、どちらかが見ているときだった。 「何故、直ぐに逃げなかったのですか?」 「逃げ出せないのよ。だって凛子には父親が必要でしょう。あと、隆弘……ホントは優しいの。私を殴った後、泣きながら私を抱きしめて許しを乞うの。ゴメン、お前しかいない、お前しかいないって……」  それでも突然に始まった彼のDVは日常的となっていく。まるで食事でもするかのように生活に存在していった。  それは約2年の間続いていく。  
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