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『そしたら瞬く間に光が四方八方へ弾け飛んで、私を閉じ込めていた暗闇を次々に破壊していったんだ。 その間も楓喜くんの声は絶えず鼓膜に震えていて、やがて私は何かで満たされ始めた』
「何か、っていうのはつまり」
『幸せ、しかないよね』菊乃は微笑みに照れを含ませて、白い歯を覗かせた。 『私にとっての幸せを──いつか思い出を語り合うことを──楓喜くんが行ってくれたから、私はいっそ溢れ返るほどの幸せで満たされたの。 だから本当に、ありがとう』
言って、菊乃は涙を流しながら僕に笑いかけた。
「僕の方こそありがとうって伝えるよ。 菊乃のおかげで自分の生き方を許してあげることが出来たんだから。 何度でも言うけれど、僕には菊乃しかいない。 今だって、菊乃の笑顔に僕は幸せを感じるんだ」
もうすぐ、北莉が先に待機している広場に到着する。 ひょっとすると彼女は、僕たちに会話の時間を与えてくれたのかもしれない。
こちらに手を振る北莉に片手を挙げて応え、しかし歩調は先ほどよりも幾分か緩めた。 菊乃は不思議そうに僕を見やって小首を傾げる。
「あのさ、菊乃」
『どうしたの』
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