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「・・・っ。龍鴻さん・・・近い・・・です・・・」
そう言って俯いてしまった蒼真の表情を窺い知ることはできなかったけれど、蒼真の黒い髪の間から覗いた柔らかそうな耳は赤く熟れていてそんな蒼真を私は『初な』と思っていた。
『蒼真は僕に抱きつかれたり、抱きしめられたりするの嫌?』
私は蒼真に抱きついたまま訊ねた。
「い、いえ! そんなことは全然ないです! ただ・・・本当にいいのかな? なんて思ってて・・・」
蒼真の声は段々と小さくなった。
潮が引いていくときの波音のように・・・。
『いいんだよ。昨日の夜だって腕枕してあげたでしょ?』
私がそう告げると『ボンッ!』と言うような破裂音が聞こえた気がした。
私はその聞こえるはずのない破裂音をクスリと笑い、私の腕の中でわなわなしている蒼真の髪をそっと撫でつけて『いいんだよ』と言う言葉を繰り返し、今日は出掛ける用事があることを蒼真に告げ、蒼真から離れて蒼真が仕事に出て行くまでの間、いつもと変わらない尊い時間を蒼真と共に過ごした。
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