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「久しぶりに『椿』とかどう?」
俺は絶対に外れない的を用意した。
椿が駄目ならどこも駄目だ。
「・・・行く」
ボソリと・・・けれど、ハッキリとそう言った狼鷲に俺は『ん!』と返事を返し、ゆっくりと布団をはぐって未だに泣き続けている狼鷲をそこから引きづり出し、濡れている狼鷲の目元を拭い、笑ってしまっていた。
俺が笑うと狼鷲はムッとした表情を浮かべ、コツン(と、言うよりはゴツン)と額と額をくっ付けてきて、スゥー・・・と、息を吸い込み止めていた。
「・・・狼? 泣きたいなら泣いていいよ?」
俺はそう言って狼鷲を抱きしめ、狼鷲から微かに香ってくる潮の匂いにざわりとさせられていた。
潮の匂いを懐かしいと思う・・・。
それは俺の記憶からではなく俺の中にいるヤツからの記憶だろう・・・。
もうどんなに望んでも帰ることはできないのに・・・。
『・・・泣かない。・・・行こ? 腹減った・・・』
そう言って離れて無理に笑んだ狼鷲に俺は無茶苦茶なキスをし、狼鷲に怒られることでなんとかその場を切り抜けた。
狼鷲を今、抱くことは恐らく悪だから・・・。
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