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俺は狼鷲の手を握り直し、狼鷲の手を引いてその人、小料理屋 『椿』の店主 萩月 伊織の立っている正面のカウンター席に着き、胸いっぱいの空気を吸い込んだ。
今日も『椿』の店内にはいい気が満ちていて、いい匂いにも満ちていた。
そのいい気に俺は背筋を伸ばし、いい匂いにはぐぅ~・・・と腹の虫を鳴かせそうになっていた。
腹が減った感覚はないのにここに来るといつも腹の虫が鳴きだしそうになる。
そして、口中には唾液が泉のように溢れ、早く何かを口にしたいと思うから不思議だ。
「今日のオススメはなんですか?」
『椿』の店主に俺はそう訊ね、目の端で揺れた濃紺の暖簾へと視線を向けていた。
ここの店主はまた何か妙なモノを飼いだしたらしい・・・。
揺れていた暖簾が捲れると錆浅葱色の着物を着付けた青年がぬっと現れ、抑揚のない口調で『いらっしゃいませ』と言葉を口にした。
そんな青年を目の当たりにした俺は無意識のうちにその目を細めてしまっていた。
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