76人が本棚に入れています
本棚に追加
「すぐに部屋の準備をしますからお待ちください」
店主はそう言うとそそくさと店の奥へと姿を消していき、そこに残された俺は狼鷲の頭を撫で続けていた。
なんとなく落ち着かなかった。
その落ち着かない原因が何かはわからない。
もし、何か原因があるとすればそれは聞こえるはずのない潮音が聞こえ続けているからだろう。
『神・・・様?』
そんな声が聞こえてきた。
それは幼く、愛らしい女児の声だった。
俺はゆっくりとその声の聞こえてきた方を振り返り、笑んだ。
「こんばんは。ちょっとだけ神様・・・かな? この子が・・・」
俺はそう答えて狼鷲の頭をポンポンとし、その子を見つめ見た。
艶のいい黒髪は肩と大きな目の上で丁寧に切り揃えられ、赤い綺麗な着物を身に纏ったその子の回りは一際清んで見えた。
『お姉さん・・・じゃ・・・ない・・・の?』
その子のその言葉に俺はきょとんとさせられ吹き出した。
まさかそんなことを言われるとは思わなかった。
「お兄さん・・・かな? 僕、お姉さんに見えた?」
久しぶりに言われた。
俺はたまに女と間違われる。
その見た目が幸か不幸かで俺は今も生きている。
最初のコメントを投稿しよう!