海の神様と山の神様。

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「神落ち・・・。存在を忘れられ信仰を失った神が消えること・・・。今の世では珍しいことではないですね。今の人の世で神を慕う者はどのくらい居るのでしょう・・・」 店主はそう言うと広い中庭の見える障子を開け、部屋の中に夜風を入れた。 その風に香る百花の匂いは清く、夜の匂いは濃かった。 「・・・教えていただけますか? 神落ちを免れる方法・・・」 そんな方法があるのかは不明だ。 だが、訊ねずにはいられなかった。 それは消えゆく海神のためではなく・・・。 俺は穏やかに眠っている狼鷲(ろうしゅう)のあたたかい手を握ってみた。 狼鷲(ろうしゅう)が起きる気配はまだない。 飲めない酒を無理に俺が飲ませたから・・・だけではないだろう。 恐らく出された酒の中に・・・何か・・・。 そして、その『何か』を仕込んだとすればそれは店主以外に居ない。 「方法は・・・思い出していただくのです」 「え? 思い出す? 誰に何を・・・ですか?」 無表情に言った店主に俺はすかさず訊ねた。
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