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「実子ではありません。十時 桜は元は人の子。口減らしだったのか何か他の事情があったのかは知りませんが師走の末日に雨月が拾ったそうです」
店主のその言葉に俺は『そうですか・・・』とだけ答えていつか見た冷えた満天の星空を思い出していた。
空腹は寒さで寒さは痛みだった。
空腹も寒さも痛みもやがて感じなくなった頃、ふと現れたのだ。
白銀の毛に覆われ、その背に鷲の翼を生やした深緑の瞳を持つまだ小さな狼が・・・。
「捨てるモノがいれば拾うモノがいる。払うモノがいれば招くモノがいる。壊すモノがいれば創るモノがいる。逃げるモノがいれば追うモノがいて・・・」
「逃がすモノが・・・いる?」
「ええ・・・そう。本当に面白いものですよ」
そう言ってクスリと笑った店主はどこか空虚だったが前ほど空っぽではなかった。
恐らく・・・面白い何かを見つけたのだ。
そして、その何かも店主の影響を受けているのだろう。
俺はどこからか聴こえてくるまだ下手な三味線の音を聴いていた。
「・・・面白き・・・こともなき世を・・・面白く・・・」
ふとそう呟き笑った店主に俺は頭を下げた。
明日、十時 桜の元を訪ねてみよう。
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