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出会いの夜
彼はこの近所に住んでいて、仕事で忙しい両親の代わりに家事全般を行なっているらしい。儚げな雰囲気とは裏腹に言うことははっきりしていて、
そのしっかりした物言いから彼が中学生であることを忘れそうになる。
彼と出会ったのは3日前、仕事で色々溜め込んでいた俺は洗濯がてらコンビニで酒を買って、一人でコインランドリーで飲んでいた。
ちょうど話し相手が欲しくなった時、彼が現れた。
今思えば、ただのやばい奴だが、
「お兄ちゃん、いまひまぁ?一緒に飲まない?」
とかなんとかいって声をかけて彼にビールを勧めた。
彼はとても困った顔をしていたが、数分粘ったら、彼は俺が進めた酒缶を受け取ってひと口飲んだ後、俺の隣に座った。
俺の愚痴に対して、彼は「へー大変だなぁ」や「大丈夫?」など励ましてくれた。相槌を打つタイミングが絶妙で俺は話してて楽しかった。
「いや〜ごめんねぇ〜見知らずの男の愚痴聞いてもらっちゃって」
まったく、その通りである。
『いえいえ、大人は色々あるから、愚痴もたまには必要でしょ?悪いものを吐き出すのも必要ですよ。』
そう言い切る彼は、嘘がないように感じた。なんていい人なのだろうか。こんな人がいると思うと、俺の仕事の愚痴なんて馬鹿馬鹿しくなってきた。
多分学生で自分よりいくつか年下だろうが、この子はだいぶしっかりしている。
「君かっこいいなぁー、君に話を聞いて貰ったら、なんかスッキリした。」
本当ですかって彼が首を傾げた。
「んー。凄く気が楽になった。君、話聞くの上手いよ。明日から頑張ろうって思えた。」
『ふは、ならよかったです』笑う声が無邪気で、とっても可愛らしい。
「俺ばっかり話してちゃ悪いし、君の話も聞きたいなぁ」
『えっ?俺の話?』
「おぉ。何でも良いから、学校のことでも家のことでも…」
『何でも、ですか…』少し考え込んだ後、
戸惑いながら彼は話し始めた。
『じゃあ、話します。これは俺の友達の話なんですけど…』
あっこれ自分の話だなって何となく察した。
『告白されたらしいんです。幼馴染に。』
おっと、恋愛系か。
『ずっと仲良くて、友達として好きだし、[俺も]って言ったら、違うそうじゃないって、泣かせてしまったらしいんです。
最初、その、恋愛対象としての好きって思わなかったらしくて、』
なるほど、若いうちにはありそうな話である。
『それで、困っちゃってて、その子に申し訳なくて……しかも、その子と話せなくなってしまって、どーしたらいいかって困ってるらしいんです。』
うーん、なかなか難しい話だ。
その女の子は勇気を出して彼に告白したのだろう。
それが伝わらなかったのは、結構キツイ。
この場合、本心を直球にぶつけるのが一番だが、話の内容的に告白してきた子は振られてしまう。
どっちにしろ、彼女は辛いだろう。
でも、今の気まずい状況を長々と続けていくのは、どちらにとってもスッキリしないし、はっきりした方がいい気がする。
「それは、大変だなぁ。告白してきた彼女、頑張ったんだろうな。」
25年も生きていれば、何度かそうゆう経験はある。仲が良かった女の子に
思いを告げた時、必死に告白したのを思い出す。あの時の勢いは若さの賜物だが、正直、不安もあった。友達ってゆう枠から恋人って枠を上手くいけば取れるけど、上手くいかなかった時に、友達の枠から外れてしまうのではないかって。それを承知で突撃しにいくのだ。
【告白】ってのは、恋愛において最大の賭けなのだ。
彼女もきっと、覚悟を持って告白しにいったのだろう。
「でも、それをきちんと受け取れなかったからって自分を責める必要はないと思う。」
大切なのは、相手のことをきちんと考えることだ。だから責める必要はない
「人間関係って難しい事もあるけど、やっぱり、直接話し合うのが一番手っ取り早いと思うんだ。いきなりが無理なら電話でもメールでもいい。なぁなぁになるのが互いに辛いと思うし。」
『でも、相手の子に失礼じゃないですか?ごめん。〔付き合う事はできないけど、友達として好きだから、仲良くしよう。〕なんて虫が良すぎませんか』
「確かにね。でも、俺はそうとは思はないよ。俺が告ってきた子なら、好きな人が真摯に向き合ってくれて、真剣に出してくれた答えだろ。納得するしかないじゃん?ずっと俺のこと考えて答えを出してくれたんだろうし、相手にも考える時間も必要だったと思うし。あとさ、告ってきた人だって振られる事も考えて告白してくるから、そんなに重く考えなくても良いと思うけど?」
「俺は俺の価値観でしかものを言えないけど、コミュニケーションって、難しいと思いがちだけど、意外と単純だったりするんだよ。俺の経験的に」
「だから、その子には、当たって砕けろっアドバイスしといて」
熱く語りすぎただろうか。
『分かりました。そうアドバイスしときます。』
『話合わなきゃなって俺も思ってたんですけど、難しく考えすぎてたみたいです』
くすりっと笑い声が聞こえた。
『なんか、見た目に反して熱い人なんですね』
見た目に反してってのがひっかかるが、納得してくれたらよかった。
彼はスッキリしたのか、足をパタパタさせながら空を見ていた。さっきまでフードを深くかぶっていたからきずかなかったけど、この子、目が金色だ。
初めて見た。綺麗だなっとぼんやり思った。
今日は新月なので星が綺麗に見えた。
結局そこから、50分くらい楽しく談笑した後、解散することとなった。
飲みすぎた俺は、コインランドリーの前で盛大に吐いた。
彼は心配して管理人さんを呼んでくれて、エチケット袋をくれた。
ついでに薬まで。マジで神かと思った。
彼が未成年だと知ったのは、その翌日だ。その時は前日の夜の記憶はおぼろげで、どうやって家まで帰ったのかは覚えがなかった。二日酔いで意識を朦朧とさせながら出勤して店先で準備をしていた時に後ろから声をかけられた。
「あれ、昨日の人だ。」
振り向くと、地元では有名な私立中学校の校章入りの制服を着た子供が立っていた。
『昨日はありがとうございました。楽しかったです』
はて?何のことだろう?そして、誰だろう…この美少年。と思っていたら、
「覚えてませんか?昨日の夜、一緒にお酒を飲んだじゃないですか。」
眉毛をしゅんっとさせて、とても可愛いのだが俺はぴんっとこない。
あれっでも、この目…?あれ?
若干、茶色より明るい透き通る目。
前にも…あっ
昨日の出来事が電撃のように走り抜ける。
ああーーーー!!!
これが少年との出会いであった。
俺はそのあと、酒を飲ませてしまった事、愚痴を聞いてもらった事、
吐いたことなど、数々の失態を全力で謝った。
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