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巨大な戦艦が沈み地球に平和が訪れる映像が流れた後、俺は隣に座る友人に断りを入れて先に外へ出た。本当はエンドロールも全部観たい。エンドロールの合間に特典映像が流れたり、エンドロールの最後で次回作につながるような予告シーンが出ることもあるからだ。だがそんな悠長なことは言っていられない。暗い中転びそうになりながら、重い扉を開け俺は走って行った。
トイレから出てきた俺はさっぱりした気持ちで友人を待つ。ほどなくしてやってきた友人は片手をあげて叫んだ。
「大丈夫?もしかしてゲリ?」
「ちげーよ。大声出すんじゃねーよ!」
顔を赤くしてまわりの反応をうかがう。友人の叫び声で、周囲の注目を集めなかったのを確認してほっと息をついた。上映中に飲み食いしたLサイズの紙コップや、ホットドッグの包み紙のゴミを捨ててくれたことには礼を言う。慌ててできたから、後片付けをぜんぶ友人に任せてしまったのだ。
「エンドロールの後とかさ、何か流れた?次回作の予告とか」
「ああ、流れた流れた。沈んだ戦艦がさ、海の底から勝手に浮き上がるんだよ」
「何だそれ」
「俺もよくわかんねーんだけど、戦後50年経って宇宙から侵略者がやって来るんだと。それで戦艦が復活するっぽい」
「すげーな」
最初にこの映画の話を聞いた時は首をひねりたくなるような内容だった。よくもまあ、これだけの人間が観に来るもんだと映画を観る前は感心したくらいだった。
「まあ、良かったよな。ラストとか。俺、うるっときたもん」
友人が目頭に人差し指をあてて涙をぬぐう仕草をしてみせる。それからラストシーンでどれだけ感動したか、何が良かったか、船長のこと隊員のことまで詳しく語り始めた。
「お前もラスト良いって思っただろ?」
余韻がまだ残っているのか、友人の顔が明るく輝いている。良い映画を観た後というのは体の中から何かがぶわっとあふれ出しそうになるのだ。ラストシーン、ちょうどラスト5分といったところか。
「俺はずっとトイレ行きたかった」
「…感動台無しだな!飲み物Lサイズとか頼むんじゃねーよ」
分かち合えない感動を持て余した友人が、俺の後頭部を思い切りひっぱたたいた。
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