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決着
「史上稀に見る接戦となった今年の決勝戦。次の問題が最終問題となるのでしょうか?」
増田さんが厳かな声でそうアナウンスする。
「問題!『荘子』に由来した言葉で邪念がなく落ち着き払っているという意味を持つ、水という漢字を用いた四字熟語……」
ーーわかった!明鏡止水だ!!
「赤岩ガーくん、永遠ラブ!赤岩ガーくん、永遠ラブ!」
私は枯れそうな喉を震わせて叫ぶ。勝利への階段を登るかのようにメーターが一段、また一段と光っていく。そのとき隣から青山さんの叫び声も聞こえてきた。
「同担だけは絶対拒否!同担だけは絶対拒否!」
青山さんのメーターの目盛は急速に伸びてきて、ついには私に並んだ。
「赤岩ガーくん、永遠ラブ!赤岩ガーくん、永遠ラブ!」
「同担だけは絶対拒否!同担だけは絶対拒否!」
私の意地と、青山さんの意地。
ガーくんも、優勝も、譲りたくない!
「赤岩ガーくん、永遠ラブ!赤岩ガーくん、永遠ラブ!」
「同担だけは絶対拒否!同担だけは絶対拒否!」
メーターはぐんぐんと伸びていき、
「ピーン!!」
という音がついに鳴った。
解答権は……
解答権を得たのは…………!!
「桜山学園、青山さん!」
増田さんの口からは、無情にも私の名前は呼ばれなかった。ほんの一目盛りの差だった。
「明鏡止水!」
暫しの無音が太陽の台地を包み込む中、私は天を仰いだ。そして正解音と勝者を称えるファンファーレとともに、その沈黙は破られた。
私はがっくりとこうべを垂れた。目もとから熱いものがとめどなく溢れ出てきて、抑えることができない。
「優勝おめでとう」
晴れやかな表情を浮かべる青山さんに、増田さんがそう言いながらマイクを向ける。
「ありがとうございます」
「やりましたね!」
「本当に感無量です」
そう答える青山さんの顔は疲れをのぞかせつつも晴れやかなものだった。
「しかし、本当に激戦でしたね。恐らく歴代の決勝戦と比べても3本の指に入るほどの名勝負でした」
「はい。丹治さん……本当に強かったです。こんな強い人と決勝戦を戦えて、そして優勝できて、本当に幸せです」
青山さんの顔を見る限り、その答えに嘘偽りもなければ、虚飾もなさそうだ。
「丹治さんとは『同担』でしたよね?」
「はい!」
「やっぱり、同担は拒否ですか?」
「勿論拒否ですよ!」
そう高らかに宣言する青山さんの瞳はすでに穏やかになっていた。
「そして、惜しくも準優勝に終わってしまった丹治さん」
「……はい」
「素晴らしい戦いをありがとう。本当に記憶に残る闘いだったよ」
穏やかな声で増田さんが語りかけてくる。私の喉からは声が出てこず、思わず顔を覆った。そのとき、トントンと私の肩が叩かれた。振り向くとそこには青山さんの姿があり、私に無言で右手を差し出していた。
青山さんは同担であると同時に、すでに同担以外の存在になっていた。私はとめどない涙が流れるままに、最高の好敵手の手を握り返した。
「今、2人の美しきヒロインが敵味方という立場を超越して手を取り合っています」
増田さんの声が響く。
「丹治さん、やっぱり同担は拒否ですか?」
増田さんが私にマイクを向けてきた。私は少しだけ考えた後、
「勿論です」
と答え、口角を上げた。
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