大舞台

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大舞台

 翌朝、私はテレビ局のADさんが用意してくれた車へと乗り込んだ。車に揺られること1時間、 「着きましたよ」  ディレクターさんが私にそう声をかけてくれた。車のドアを開け、私は 「うわぁ!」  と思わず叫んだ。無理もない。一点の曇りもない青空の下、周りに広がっているのは真っ黄色の絨毯。満開のひまわりの花が所狭しと咲き誇っているのだ。この舞台で決勝戦を行える思うと胸がワクワクしてくる。そしてそこ広大なひまわり園の前には2つのボックス席が用意されており、その上には500mlのペットボトルに入った水が2本用意されていた。そして2台のマイクと10個目盛りのあるメーターがセッティングされている。会場にはすでにもう1台の車が着いており、もう1人の決勝進出者・青山さんの姿が車の外にあった。 「本日決勝戦を戦う桔梗坂高校の丹治るみなさんと、桜山学園の青山ひかりさんです」  番組のロゴが入ったTシャツを着た若いADさんがそう声を張り上げると、カメラマン、音声、ケーブルを捌くスタッフの人など皆が温かい拍手で迎えてくれる。 「そして司会の増田昭彦アナウンサーです!」  ノーネクタイで水色のボタンダウンを着た増田さんが一歩前へと進み、 「丹治さん、そして青山さんが全力を出しきれるようベストを尽くします。よろしくお願いします」  と深く一礼した。再び拍手が沸き起こる。 「それでは本番に参りますので、所定の位置にお願いいたします!」  ADに促されて私は解答席へと入る。それと同時にライバルの青山さんもスタンバイを終えた。準決勝までずっと危なげなく勝ち進んできた青山さんはさらさらのセミロングヘアが似合うすらりとしたスタイルの持ち主。目もともキリリとしていて才気を感じさせる、いわゆる才色兼備という感じの女性だ。はっきり言ってかなりの強敵だが、負けるわけにはいかない。 「では行きます!3、2、1……」  カメラのレンズの下でADさんが掌を増田さんにむけた。本番開始の合図らしい。ADさんが出すスケッチブックの文言を一瞥すると、増田さんが口を開いた。 「高校生最強頭脳王決定戦も、ついにあと1つのステージを残すのみとなりました。今年の決勝戦は3000本の向日葵が咲き誇る『太陽の台地』で行われます。そして今年決勝に進んだのは2人とも女子。一面の向日葵に囲まれた舞台で大輪の花を咲かせるのは桔梗坂高校、丹治るみなか?それとも桜山学園の青山ひかりか?」  ジリジリと太陽が照りつけ、増田さんの額の汗が七色に光った。 「ということでこれから決勝戦なんですけど、今年の決勝戦のセット、どこかいつもと変わったところがあると思いませんか?」  増田さんがそう問いかける。私は解答席を見回す。マイクとメーターがあって、水が準備され……あっ!  いつもあるはずの肝心なものが用意されていないことに今、気づいた。 「早押しボタンがありません」  そう声を上げたのは青山さんだった。 「じゃあ代わりにあるのは?」 「このメーターです……」  青山さんが恐る恐る答えた直後、増田さんはニヤリと笑みを浮かべた。過去にこんな出題形式があった気がしつつも、私は増田さんが再び口を開くのを待つ。 「そうですね。このメーター、何なんでしょうねぇ?よかったら試しにちょっとマイクに向かって自己紹介をしてみてください」  とぼけた表情の増田さんに促され、青山さんがマイクに向かった。 「桜山学園の青山ひかりです」  青山さんがそう喋りかけた瞬間、メーターの電球が光った。増田さんはその光景を見て笑みを浮かべた。 「こちら、実は音量計になっております。皆さんの声を数値化して、そして蓄積していくシステムなんですね。ということでもう勘のいい方はおわかりですね。それでは発表します!今年の決勝戦は、太陽の台地で行われる『太陽の台地での灼熱の死闘!大声クイズ』だ!」  増田さんはそう叫んだ。その後増田さんは私達に簡単なルール説明をしてくれた。 ①与えられたフレーズを叫ぶごとにメーターの数値が増えていき、早く最大値にたどり着いた方が解答権を得る。 ②お手つきはその問題につき解答権を失い、解答権が相手に移る。 ③10点を先取した方が優勝  というものだ。 「今年は17年ぶりに女子生徒同士の戦いですね。最高の闘いを期待しています。それではお互いに叫んでもらうキーフレーズを発表したいと思います!」  増田さんの声を聴き、私は息を呑んだ。
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