キーフレーズ

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「丹治さん」 「はい」 「あなたの趣味は何ですか?」  唐突に増田さんが私に尋ねてくる。 「読書と、音楽鑑賞と、それと映画鑑賞です」 「なるほど。昨日も映画を観にいかれたそうですね。しかも昨日は応援上映だったとか」 「はい」 「何という映画でしたか?」 「『レッド・プリンス』という映画です」 「だいぶ流行ってますよね。ちなみに1番のお気に入りは?」 「え?センターの赤岩賀練斗くんですけど」  増田さんが随分と突っ込んだ質問をしてくることにちょっとだけ違和感を覚え始めた。 「その赤岩くんのことを丹治さんは何って呼んでる?」 「ガーくんです。本名が賀練斗(がぁねっと)なので」 「なるほど。で、そのガーくんたちがいるグループ『レッド・プリンス』の代表曲と言ったら?」 「『永遠ラブ』です」  私がそう答えた瞬間、増田さんは手元のフリップを持ち上げた。 「ということで、丹治さんのキーフレーズはこちらです!」  増田さんがフリップを表に向けた瞬間、私は全身が熱くなるのを感じた。 ーーこれ、全国ネットのカメラの前で叫べって言うの??  増田さんのフリップには大きな赤文字で 「赤岩ガーくん、永遠ラブ!」  と書かれていた。  私の心の動揺などつゆ知らぬかのように、増田さんは今度は青山さんの方を向く。 「青山さん」 「はい」 「あなたも映画鑑賞が確かお好きでしたよね?」 「……はい」  青山さんの表情からほんの少しだけ血の気が引いた気がした。 「その中でも特に好きなのは?」 「……『レッド・プリンス』です」 「お気に入りのメンバーは?」 「……赤岩賀練斗(がぁねっと)くんです」 ーーえっ?私青山さんと同担(どうたん)なの??  「同担」とはグループ内の同じアイドルや同じキャラクターを応援しているということを示す単語だ。これから火花を散らすことになる青山さんと同担だなんて……これは……これはっ…………!! 「丹治さんと同じキャラクターがお好きなんですね」 「…………どうやら、同担みたいですね」  2人の受け答えの途中で妙な間があいたのが分かった。青山さんももしかして……もしそうだったら…………!! 「ちなみに、同じキャラクターを推している他の方について、どう思いますか?」 「同担は絶対にお断りです!」  増田の問いかけに食い入るようにして、青山さんは高らかにそう宣言した。やっぱり青山さん「同担拒否」だったんだ! 「ということで、青山さんのキーフレーズは、こちらです!」  そう言いながら増田さんはフリップを表に向ける。青山さんはそこに刻まれた青色の文字を眺めつつ苦笑いしていた。 「同担だけは絶対拒否!」  青山さんもガーくんの「ガチ勢」。  青山さんと同担。  これならば、私の中の答えはひとつ。  この決勝戦、色んな意味で絶対に負けるわけにはいかない!  ギラギラと太陽が照りつける中で、私の心の中に厳格なる闘志が芽生えた。
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