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「願い」9
「俺の好きにしていいんだろ?」
葉月に潤んだ瞳で見つめられ、熱い息が掛かる。ゲームに負けてまさかキスをされるとは思わなかった渉は、訳がわからず驚くばかりだ。
「ど、どうしてこんなこと……」
「わからない」
「え?」
「俺だってわかんないよ!」
ついさっきまでゲームに勝ったら「隣の家の葉月」をどう思っているのかを聞こうと思っていただけなのに。渉が甘えた口調で「もう一度」を言うから、少しだけあったはずの理性が吹っ飛んでしまった。いや、初めから渉を自分のものにしたいと思っていたのかもしれない。
肩を掴まれ脅える姿に煽られた葉月は、手に力をこめて唇を寄せる。拒もうと顔を背ける渉を体ごと引き寄せ、葉月はもう一度キスをした。
キスの正しいやり方なんて知らない。ただずっとその唇に、いつも優しく自分の名前を呼ぶそれに口づけたいと思っていた。他の誰の名も呼んでほしくないと、息をするのもまどろっこしい程に貪った。
やっと唇をはなした葉月はすぐ横のベッドに渉を押し倒して、ボタンを引きちぎるようにしてシャツを脱がしていく。予想外の出来事に固まったままの渉だったが、何とか押しのけようともがく。だがその体は頑強でびくともしない。葉月の手が渉のズボンのベルトに伸びてきて、やっと貼りついた喉から声を絞り出した。
「だ、め……っ。こんな……こと」
頭に血が上った葉月は聞く耳を持たず、抵抗する渉の手を振り払ってズボンを強引に剥ぎ取っていく。
「やめて、お願い。待っ、て……」
渉の懇願にも葉月は自分を止められない。
「待たない!もう待てない!いつも見てるだけなんて嫌だ。もう我慢なんてしない。ずっとこうしたかったのに!」
「葉月……?やっ、ああ!」
渉が言う「葉月」はいったいどちらのことだったのか。いや、どちらでも構わない。今は自分の名を呼ぶ渉と一つになることしか考えられない。掠れた渉の声に我を忘れた。
「……っ!」
色白の美しい身体。その胸の赤い尖りを吸い上げると渉の腰が弾む。憧れたその肌にずっと触れていたいが、いつまた子供に戻ってしまうかもしれない。とにかく早く繋がろうと後ろを向かせ、自身を押し込むと渉は悲鳴を上げた。
「いっ!あ──」
受け入れるべき場所でないそこに、見たこともないほどに膨れ上がった自身を挿れようとしているのだ。痛みを和らげる方法も自分には知識が皆無だ。せめて何か塗る物をと思っても、部屋にはハンドクリームさえない。
それならばと葉月は指で拡げたそこを、舌でねぶることにする。はざまに息がかかり、意図したことがわかって渉は暴れる。
「や、いやだ。だめ、やめ……。あ──」
尻を押さえつけて執拗に舐めていくと声のトーンが変わる。
「や……あ、……んんっ」
快楽を我慢する渉に、わざとピチャピチャと猥雑な音を立てて舐め拡げる。もはや抵抗もしない体を仰向けにして、葉月は熱く硬くなった自身を、今度はゆっくりあてがった。
「やっ、あ、あ……んんっ」
抗っていたそこが次第に自身を受け入れて来ると、悦びの刹那怒りに変わる。初めての自分が渉と繋がれるなんて、そんな体にしたのが高山で、葉月の親戚だと言うだけでこんなことをさせる隙だらけの渉に頭に来た。もはやそうしているのが自分だと言う冷静さはない。
「もう俺のもんだ。他の奴となんか、絶対にしないで!」
「え?はづ……ああっ」
誰も来たことのない場所に行きたいと、葉月は渉の細い腰を掴み何度も奥まで突き刺していく。渉はその欲望の大きさに呻きながら背中に爪を立ててしがみついた。
「あ、あん。あ…………ううんっ」
そのうち渉は甘い声に変わり、それを引き金に葉月の動きも止まらない。やがて葉月はこの世で一番愛しい人の中で放埒を迎えた。
「ああ──」
あまりの絶頂感に恍惚となり、同時に津波のように押し寄せる後悔が葉月を襲う。
(渉兄が好きなのに、傷つけたくないのに)
「俺、ごめん。こんなことするつもりじゃ……」
葉月は渉の上に覆いかぶさるようにして抱きしめて、心からの懺悔をした。
(渉兄、酷いことしてごめん)
息も絶え絶えの渉はその重みを受け止め、どうにか動かせた腕を回して長く伸びたくせ毛をポンポンと優しく撫でた。
いつもの葉月にするように……。
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