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黄昏どきのユニコーン
三月の土肌が季節の境堺を滲ませていた。 飛鳥はちょっと怒ったような顔をして、はや足で土手を歩いている。
校長先生のうんざりするほどの長い祝辞も、まったくといっていいほど思い出すことができなかった。 仲が良かったと思っていた友達とも、いつもちょっかいをだしてきたアイツとも、なにもかもが無かったように、ただただ、いつものように『じゃあね』と言って別れた。
本当に、空気のように、さらりと中学生最後の日が過ぎてしまった。 もっと、感動的な別れがあるのかと思っていた。 もっと、思い出が続くようなドキドキした言葉があるのかと思っていた。
先生との涙の別れも、友達との十年後の約束も‥‥‥ なにもなかった。
飛鳥は二ヶ月前に父さんの仕事の都合で、中学校のある町から引越しをしたばかり。 それでも限られた時間の中で思い出を紡ごうと、ちょっと無理をして越境をしながら学校へと通っていた。 しかし、すべてが終わってしまった明日からは、自分を除いたものたちの時間だけが流れていくのだろう。 飛鳥は拳をぎゅっと握りながら、あの町の方向へと振り向くことを強く拒んでいた。
そして、たった三駅離れただけのあの町が、この地球で一番遠い町になった。
空の向こうで、雲雀の鳴き声が聞こえる。 巻き上げた風にそよぐ、飛鳥のウェーブのかかった前髪が眉をくすぐる。 あとはなにも感じない、そしてなにも聞こえなかった。
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