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高校への電車通学
哲太は昨年の春から、高校までバスと電車で通っている。
大変なのは母さんだよなぁと、哲太は思っている。
中学は学区制の公立校で、部活もやっていなかったから、朝は早くなかったし、昼は給食だったから、弁当を作ってもらう必要もなかった。
今も部活はやっていないし、始業時間が中学の時より遅いこともあって、家を出る時間はさほど変わらない。
だけど、バスや電車は時刻が決まっている。家を出るのが遅れたらその分チャリンコをぶっ飛ばして調節、というわけにはいかない。遅刻するとわかっていても、次の便を待つしかない。
そして、給食がないから弁当だ。
毎朝、自分が遅刻しないで済むのは、母さんがきちんと弁当を時間に間に合わせてくれるからだ。
だから、哲太は朝家を出る際、行ってきますの前に「弁当サンキュー!」と言うことにしていた。
今朝も言った。
母さんのおかげで電車に間に合う。
そして………誰にも内緒だけど、あの電車に乗れば、『彼女』に会えるんだ。
サラサラそうな髪を左肩の上でひとつにまとめた、たぶん年上のひとだ。きれいな黒い眉をしている。まつ毛も長い。だから、横顔がひときわ美しくみえた。
制服は哲太の下車駅よりひとつ先の高校のものだった。一目でわかった。有名な進学校だからだ。
年上、美人、進学校生。
年下、ルックスは可も不可もなし、そして一般高校生である哲太にとっては高嶺の花で、見ているのが精一杯なんだけど。
今日もいるかな~?
ホームに下りる哲太の足取りは軽い。
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