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車両に彼女の姿が……ない?!
いつもと同じ車両に乗り込んだ哲太は、車内を見回した。
「あれ?」
思わず声に出してしまった。
彼女の姿がなかったのだ。
哲太の乗車駅はいろんな路線が集まっているため、乗り換え客のために電車が少々長く停まる。
哲太はいったん降りて先頭までダッシュし、折り返してまた電車の横を走りながら、全車両内を確認した。
そして彼女の姿を見つけられないまま、最後尾に着いてしまった。
哲太は、「えー?」と呟いてきびすを返した。
すると、はるか彼方、同じホームのベンチに彼女の姿があった。電車側を向いて走り抜けたから気がつかなかった。
「うおっしゃー!」
ガッツポーズしたのもつかの間、哲太の顔は曇った。
彼女はベンチに座ってうつむいたまま、静かに涙を落としていたのだ。
「え? な、なんで?」
哲太は焦った。好きな子が泣いているところに出くわすなんて、はじめてのシチュエーションだったからだ。
遠くから凝視したまま立ち尽くしていると、アナウンスが流れた。
「4番ホームに停車中の〇〇線〇〇行き、まもなく発車いたします。ご利用のお客様は乗車してお待ちください。」
天の声に聞こえた。
哲太は迷うことなく彼女に走り寄って、声を掛けた。
「先輩、この電車っすよね? 乗らないと発車しちゃいますよ!」
「え……?」
彼女は驚いたようだ。無理もない。片思いして1年と数ヶ月になるが、挨拶すら交わしたことがないのだから。
「あと、1分くらいっすよ?」
腕時計を見てから、また彼女を見た哲太に、彼女は言った。
「いいのよ、私は。今日は乗らないの。」
「へ?」
「今日は、っていうか、今日からもう乗らない、かな。」
「え? だって学校でしょ?」
彼女はいつも通り制服を着て、鞄も持っている。通学準備万端なのに、電車に乗らないとはどういうことか。
そうこうするうちに、発車のベルが鳴った。
哲太は心のなかで母親に謝ってから、彼女の隣の席に座った。
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