不完全変態

1/5
前へ
/5ページ
次へ
『ミーンミンミンミンミンミンミンミンミンミーン』 「ミーンミンミンミンミンミンーー」 『ミーンミンミンミンミンミンミンミンミンミーン』 「ミーンミンミンミンーー」 『ミーンミンミンミンミンミンミンミンミンミーン』 「ミーンミンーー」 『ミーンーー』 「ちょっとは待てよ、馬鹿野郎!」  ネクタイを服の山に叩きつけながら叫ぶ。ワイシャツ、ズボン、片方だけの靴下が結託し、ほこりを巻き上げた。「うるさいよ!」とババァの怒鳴り声が聞こえた。  俺はいったい、何してんだ。  もう片方の靴下を履いたまま、ランニングシャツが背中にへばりつき、白のブリーフ一丁姿。それに加え、整えた髪もぐちゃぐちゃに乱れ、汗で前髪がおでこに張り付いている。無精髭もじょりじょりだ。  一畳間と狭く、エアコンは備えついてない。扇風機もない。頼れるのは小窓のみ。それも今は閉まっている。開けようにもめんどくさい。オレンジ色の空に向かって大きくため息をついた。  俺はセミの抜け殻のように落ちている服を、無性に蹴り飛ばしたくなった。いや、蹴り飛ばした。救い上げるように足を滑らせ、100均で買ったちゃっちいカゴめがけてシュートを放つ。  しかし、足に引っかかったワイシャツはそのまま落下。そしてズボンがテーブルをすべり、AVを押し出した。 「ちょお!」  『ちょっとあなたの見せて頂戴♪~ろりっこふぃーばーないと~』と『みちゃいやいやよんといわさんなお兄ちゃん☆』のパッケージにひびが入っていた。かずきちゃんの顔にひびを入れるなんて一生の不覚だ。 「ぴーぴーうるせえな!」  何の音かと思ったら俺の鼻くそが詰まった鼻息音だった。それなら仕方ないとあきらめた。口呼吸を意識すればいいだけの話だし。 『ミーンミンミンミンーー』 「オメエもうるせえよ!」 「うるさいのはあんただよ!」  もう全てが耳障りだった。だから夏は嫌なんだ。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加