不完全変態

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 俺はとりあえず飯にすることにした。冷蔵庫には醤油とケチャップ、マヨネーズに牛乳だけ。他にないかと確認するフリをしながら冷気で涼む。誰に見られているというわけではないが、仕方がないという言い訳がほしいのだ。  あったのは数種のカップ麺のみ。沖縄そばを取り出し、お湯を入れる。引っ越しのとき、適当にはいはい言ってたらついてきたウォーターサーバー。若干温度は足りないが別に気にしない。夏だし、暑いし。  現に持っている外側は熱い。紙を通り越して俺にやけどさせようと企んでいる。ウォーターサーバーとカップ麺の結託した意地悪な心を垣間見た。好かれているな、俺。  蓋の隙間からカップ麺独特の、いかにも健康に悪そうな匂いがする。それでも食べる、気にしない。濃い味派なので、お湯の線よりも下までしか入れない。時間も2分ぐらいがちょうどいいのだ。あの少し硬い感じがうまいのだ。  しかしこの沖縄そばは5分。3分なら2分がちょうどいい。なら5分なら何分だ。3分? 3分半? 4分? というか今何分たった?  タイマーをかけてもいないし時計も見てない。確かめるすべはない。今日はうまい飯が食いたい気分だった。 「人生、いろいろ~、男もいろいろ~」 「うるせえな! スナックでやれ!」  下からババァのだみ声が聞こえる。うるさいといいながら自分だって歌っているのだ。こういうのが隣人トラブルになる。下の部屋だけど。注意してもやめないババァに対抗して、こちらも音楽をかけることにした。  ずっと昔に買った音楽プレイヤーを手に取る。ボタン部分を回すようになぞり、小さな画面に映った曲名を目で追っていく。するとダンダンダンダンと窓をたたく音がした。そこにはババァがいた。 「いつまで外にいさせるつもりだい。暑くて死にそうだよ! 殺すきかい?」  むしろ俺が殺されそうな状況だ。割れそうなほど叩くので仕方なく開けたら、土足のまま部屋に入ってきた。 「暗いね、電気ぐらいつけな」と言いながら勝手に電気をつける。部屋全体かあらわになった。ブリーフ姿のままだが、こんなババァに恥ずかしがることはない。 「寂しいやつだね、こんなもの見て」  ババァが俺のコレクションを発見する。積みあがったAVたちがババァによって汚されていくような感覚に陥った。
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