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「彼女くらいいないのかい」
「いるわぼけ」
俺には彼女が3人いる。みんな容姿端麗でお金持ちだ。
一人目はアパートで暮らす大学院生。何もかもが小さいぷりてぃ少女だ。時間外講師をしていて教師を目指している。将来有望。
二人目は5歳年上のOL。胸は小さいが長身で足が魅力的なお姉さん。口うるさくてなんでも世話をしてくれるいい人。でもうるさい。ごはんもおいしくて甘え上手だ。でもうるさい。心配をしてくれる優しい人だ。でもうるさい。
三人目は近所の小学生。飴をあげたら懐いた。将来有望な一番の嫁候補。大本命だ。
ここ最近は連絡すらしていないが、これは作戦だ。39年も生きていれば女心もわかってしまう。あいつらはじらされるのが好きなんだ、間違いない。最後にあったのが2年前だが、まだ足りない。あと3年後に連絡を取ろうと頭の中にメモをする。記憶力はいい方なのだ。
『ミーンミンミンミンーー』
「だからうるせえって!」
俺は部屋の隅に置いてある虫かごを乱暴に揺らした。木と昆虫ゼリーがガンガンとぶつかる。なおも蝉はしぶとく鳴いていた。せっかく買った昆虫ゼリーは手つかずだ。味は俺が保証するのになぜこいつは食わないんだ。けっこううまいのに。
「あんたバカだね、蝉はゼリーなんかくわないよ」
勝手に座り込んでいるババァが言った。しかもAVを端によけてテーブルに座ってやがる。
「樹液が主食さ」
「体に悪そうだな」
主食で思い出したがすでに遅かった。沖縄そばはふにゃふにゃだ。ずずっと吸っても「うわぁ……」という感想が漏れてしまうほど。箸をさしたまま、1度も使ったことのないIHの上に置く。他にないかと漁っていると大盛りの焼そばを発見した。
「懐かしいね、これ。あたしゃ好きだよ」
「あっそ」
『三線の花』を絶賛したババァだが、どうもしっくりこない。三線の音が妙に軽々しくてムカムカしてきた。他の曲を探していると『島歌』を見つける。かけるとやっぱりいい曲だと再認識する。
「あんたこれ1分だよ」
ババァに言われて気づいた。蓋を見るとたしかに『1分』と書かれている。それにかやくを入れ忘れた。
「仕方ないね、あんたってやつは」
そう言いながらババァは粉末ソースをお湯に入れた。特性油、ふりかけ、かやくもすべてぶち込んでいた。勝手に冷蔵庫からケチャップを取り出し、さらにしょうゆもすべて入れ、ずずっと一口飲んでいた。
「まあまあだね」と言いながらお湯をすべて捨てようと容器を傾けた。すると麺がすべて流し台に落ちてしまう。
「いいかい、人生はいつもうまくいくとは限らないんだよ」
カップに麺を手づかみで戻している。箸を突っ込み「食べな」と差し出してきた。
「やるよ」
もはや焼きそばとは言えないそれをババァに譲り、仕方なく伸びきった沖縄そばを食べる。カップ麺は伸びた方がうまいと気づいた。ババァも無言で焼そばを食べているし。
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