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『ミーンミンミンミンミンミンミンミンミンミーン』
「ミーンミンミンミンミンミンーー」
『ミーンミンミンミンミンミンミンミンミンミーン』
「ミーンミンミンミンーー」
『ミーンミンミンミンミンミンミンミンミンミーン』
「ミーンミンーー」
『ミーンーー』
「ちょっとは待てよ、馬鹿野郎!」
ネクタイを服の山に叩きつけながら叫ぶ。ワイシャツ、ズボン、片方だけの靴下が結託し、ほこりを巻き上げた。「うるさいよ!」とババァの怒鳴り声が聞こえた。
俺はいったい、何してんだ。
もう片方の靴下を履いたまま、ランニングシャツが背中にへばりつき、白のブリーフ一丁姿。それに加え、整えた髪もぐちゃぐちゃに乱れ、汗で前髪がおでこに張り付いている。無精髭もじょりじょりだ。
一畳間と狭く、エアコンは備えついてない。扇風機もない。頼れるのは小窓のみ。それも今は閉まっている。開けようにもめんどくさい。オレンジ色の空に向かって大きくため息をついた。
俺はセミの抜け殻のように落ちている服を、無性に蹴り飛ばしたくなった。いや、蹴り飛ばした。救い上げるように足を滑らせ、100均で買ったちゃっちいカゴめがけてシュートを放つ。
しかし、足に引っかかったワイシャツはそのまま落下。そしてズボンがテーブルをすべり、AVを押し出した。
「ちょお!」
『ちょっとあなたの見せて頂戴♪~ろりっこふぃーばーないと~』と『みちゃいやいやよんといわさんなお兄ちゃん☆』のパッケージにひびが入っていた。かずきちゃんの顔にひびを入れるなんて一生の不覚だ。
「ぴーぴーうるせえな!」
何の音かと思ったら俺の鼻くそが詰まった鼻息音だった。それなら仕方ないとあきらめた。口呼吸を意識すればいいだけの話だし。
『ミーンミンミンミンーー』
「オメエもうるせえよ!」
「うるさいのはあんただよ!」
もう全てが耳障りだった。だから夏は嫌なんだ。
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