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占いと地震
「ちょっと、そこのアンタ」
エレベーターに向かっていた槙野沙彩はキョロキョロと辺りを見回す。
「アンタだよ。アンタ」
声が聞こえてきたのは、エレベーターの側にある小さなテナントからだった。
テナントの側の立看板には、『占いの館』と書かれており、その下には『今日の占い師』との事で占い師の名前が書かれていたのだった。
「えっと……。私ですか?」
「そうだよ。アンタだよ。ちょっと、こっちにおいで」
年配の女性の声に、「でも」と、沙彩は及び腰になる。
「私、今日は手持ちが少なくて……。とても、占ってもらう程、持っていなくて……」
立看板には、占い料も書かれていた。決して高くはないが、安くもない金額に、沙彩は苦笑したのだった。
「いいから。誰も来なくて暇だから、話し相手になっておくれ。それとも、急ぎの用事でもあるのかい?」
「そんな事は……」
今日の沙彩は、仕事も休みで、このショッピングモール内に出店している中古書店に本を売りに来ただけだった。
インドア派の沙彩は休暇の日には、買い溜めた本を読むのが好きだった。
けれども、一度の読書量に対して、ひと月に発売される新刊の量が多く、買い溜める本は増える一方であった。
それもあって、沙彩の部屋は本に埋まっており、本棚はとうに限界を越えていた。
それで、今日は休暇を利用して、読み終わった本を売りに来たのだった。
それも終わったので、あとは帰るだけだったのだが。
「じゃあ、入っておいでよ。話し相手になってくれるなら、タダで占ってもいいよ」
「えっ!? タダで?」
実は以前から、占いに興味があった。特にここの占いの館はよく当たると、SNS上で話題になっていた。
ただ、ここのようによく当たると評判の良いところは、ほぼほぼ良い値段をしていたのだった。
「じゃ、じゃあ……。お言葉に甘えて、少しだけ」
沙彩は迷った末に、占いの館に入って行った。
パーテーションで仕切られた三ヶ所の占いブースの内、一番奥側のパーテーションに人の気配がした。
「こっちだよ。早くおいで」
キョロキョロと物珍しそうにしていると、一番奥のパーテーションに行くと、全身黒い服を着た老婆がいた。
沙彩が近づくと、老婆が机を挟んで対面の椅子を指した。
「さあさあ。ここに座って」
「はあ……」
沙彩がおずおずと椅子に座ると、老婆はイヒヒと笑う。
「これは随分と珍しいタイプじゃな」
「はぁ……?」
全身黒色の格好をして、白髪が混じる髪を後ろでまとめた老婆の言葉に、沙彩は意味を掴みかねる。
そんな沙彩の様子に気づく様子もなく、老婆はテーブルの下から水晶玉を取り出すと占い出したのだった。
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