悔しい

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「そうだ。明日はサーヤに必要なものを買いに行こうか」 「でも、王城に戻るって……」 先程、コルヒドレの森で男達にそう言っていたような気がしたが、マリスは「気にしないで」と笑っただけだった。 「王城に戻る事も大切だけど、これからこの世界で生活する上で、サーヤが必要なものを買い揃えるのも大切だから」 「ありがとうございます。マリスさん。宿代や食事代まで出して頂いているのに」 この世界で仕事を見つけて、お金が入ったら必ず返そうと思っていると、先程とは別の女性が注文した料理を持ってきた。 やはり、マリスに色目を使いながら、沙彩にはぞんざいに給仕すると、女性は去って行った。 なんとなく目で追っていると、壁際にいた他の女性達とクスクス笑い出したのだった。 「冷めない内に食べようか」 マリスに促されて、沙彩は頷く。 目の前には、ボルシチのような赤みのスープと固そうなパン、イタリアン風のサラダが並べられていた。 料理を見ると、沙彩のお腹はようやく空腹を思い出したようだった。 「美味しそうですね。いただきます」 「いただきます」 両手を合わせると、同じようにマリスも両手を合わせる。この世界にも食事の際には、両手を合わせる習慣があるのだろうか。 そう考えつつ、スープを一口飲むと、香辛料と適度な塩気が空腹を満たしてくれた。 「美味しい……」 空腹だけではなく、スープの適度な温かさが沙彩の胸まで満たしてくれる。 ポツリと呟いた言葉に、マリスはクスリと笑ったようだった。 「良かった。ようやく、緊張がほぐれたみたいで」 「えっ……?」 驚いてマリスを見つめると、そっと目を細めて見つめ返してくる。 「ジョセフィーヌと触れ合っている時に、ようやく笑ってくれたけど、肩の力は抜けていないように見えたから」 「それは……。知らない世界に来たからで……」 言い訳のように言ってしまったが、マリスはわかっているというように、頷いただけだった。 「誰だって、知らない世界に一人で来たら不安にもなるだろうし、見ず知らずの男に保護されたら緊張もするだろう。特にサーヤは可憐な女性だ。男とはわけが違う」 「男とは……?」 「男なら、知らない世界に一人で行っても、意外と図太く生きていけるものだよ。でも、女性は違う。どんな危険が待ち受けているかわからないんだ。不安や孤独にも苛まれることもあるだろう……俺たちが守ってあげなきゃ」 まるで、他の世界に行った事があるかのようなマリスの言葉に、沙彩は瞬きを繰り返す。 やはり、マリスは何か知っているのではないか。 そう思ったけれども、口を開く前にマリスは食事に戻ったので、沙彩も食事を再開したのだった。
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