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痣を見つめていると、マリスが腕にそっと触れてきた。
「サーヤ。この痣は?」
「この世界に来た時に、どこかにぶつけてしまったみたいで……。でも大丈夫です! これくらい放っておけば……」
沙彩が最後まで話す前に、マリスは顔を近づけると痣に口付けてきた。
「ごめん。気づいてあげられなくて」
「い、いえ! マリスさんが悪いわけでは……!?」
けれども、マリスは泣きそうな顔で見つめると、濡れるのも構わずに沙彩を抱きしめてきたのだった。
「後で、ちゃんと手当てしようか」
「マリスさん……」
抱きしめてくるマリスの白色のシャツが湿って、沙彩の肌に貼り付いてくる。
けれども、そんなマリスのシャツを通して伝わってくる熱に安心している自分がいた。
思い切って、ずっと気になっていた事を沙彩は訊ねたのだった。
「マリスさんは、どうしてこんなにも優しくしてくれるんですか? 私が異なる世界から来たから? それとも、私が女だから?」
出会った時から、マリスは優しくしてくれた。
異なる世界からやって来た沙彩に優しくしても、見返りは何もない筈なのに。
どうして、と不思議そうにしていると、「誰にでも優しい訳じゃない」と沙彩の頭を抱き寄せて耳元で囁いてくる。
「俺はね。ずっと待っていたんだ。初めて、神託を受けたあの日から」
「神託? あの日?」
沙彩が身体を離して不思議そうにマリスの顔を見つめると、目を細めたマリスと目が合う。
湯を吸ったマリスのシャツは、すっかり透けて肌色が見えていた。
そんなマリスを首を傾げて見つめていると、マリスはそっと口を開く。
「ずっと待っていた。異なる世界からやって来た俺の姫ーー俺の愛おしい花嫁」
「なっ!?」
それ以上、沙彩が何か言う前に、その唇は塞がれていた。
これまで、沙彩は恋愛とは無縁の生活を送っていた。
キスどころか、異性と手を繋ぐのも、親密な関係になる事さえ、一度だってなかった。
そんな沙彩の初めてを奪った唇は、とても柔らかかった。
そうーーマリスの唇は。
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