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それから、沙彩を離したマリスはおもむろに湿ったシャツを脱ぐと放り投げた。
「俺も濡れたし、一緒に入ってもいいよね?」
「でも……」
沙彩にはどう言ってマリスを止めればいいのか、全く思いつかなかった。
「あの……」
そうしている間にも、マリスはついに自身のズボンにも手をかけだしたので、沙彩は真っ青になって、マリスの手を掴んだのだった。
「だ、ダメです!」
「どうして? もう、俺との関係がわかったんだからいいだろう? それに、これから先、嫌でも一緒に入る事になるよ?」
どうやら、マリスの中では既に沙彩と夫婦になることが決まっているようだった。
「それでも、私はまだマリスさんのことをよく知りませんし、いきなり花嫁と言われても何がなんだか……」
湯に浸かっている下半身に視線を落としていると、「そうだね」と頭の上から聞こえてきた。
「説明が足りなかったね。わかった。きちんと説明する。先に外で着替えて待っているから、充分に身体を温めたら、俺の使っている部屋に来て」
サーヤの濡れた髪を撫でると、「約束だよ。サーヤ」と言うと、放り投げたシャツを拾って、浴室から出て行ったのだった。
マリスの姿が見えなくなると、ほっとしてその場に座り込む。
(びっくりした……)
まだ、心臓がバクバクと音を立てていた。
沙彩は掌で胸を押さえると、大きく息を吐いたのだった。
まさか、浴室にマリスが入って来て、告白されて、ファーストキスを奪われるなんて、思いもしなかった。
こんな経験は、今まで経験したことがなかった。
誰かがやっているのを見たことも、聞いたこともなかった。
(でも、嫌じゃなかった)
これが元の世界での出来事だったら、今頃は警察沙汰だろう。
けれども、相手から悪意を感じ無かったからか。それとも、相手がマリスだからか。
嫌な思いは全くしなかった。
(嫌じゃなかった。何故か)
マリスに口付けされた唇を、そっと指先でなぞる。
マリスの艶やかで柔らかな唇の感触が、まだ残っているような気がした。
口付けされた痣にも。
(どうして、嫌じゃなかったんだろう……)
顎まで湯に浸かると、沙彩は考え始める。
マリスに言われていた「部屋で待っている」という言葉を思い出すまで、沙彩は考え続けたのだった。
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