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「サーヤ。おかえり。しっかり温まった?」
しばらくして、沙彩は浴室から出て、用意されていたふわふわした生地のバスタオルとバスローブーーおそらく、マリスが用意してくれた。に着替えると、マリスが使っている部屋に向かった。
部屋の扉を開けると、マリスは既に濡れた服を脱いで、着替え終わっていたのだった。
「はい。遅くなってすみません」
「気にしないで。それより、こっちにおいで。髪を拭いてあげるよ」
沙彩の部屋と同様に、二人は余裕で寝られるであろうベッドと、書き物机だけで、寝室はほぼ埋まっていた。
マリスが腰掛けているベッドに近づくと、沙彩は隣に座るように示される。
若干、距離を置いて隣に座るが、マリスは自分の膝の上に置いていたタオルを手に、近づいてきたのだった。
「あの、自分で出来るので……」
言外に子供扱いしないで欲しいと、タオルを払おうとするが、それでもマリスは沙彩に近づいてきたのだった。
「遠慮しないで……というよりは、俺にやらせて」
「ね?」とまで言われてしまえば、固辞するのも悪い気がして、渋々、お願いすることにした。
「サーヤの髪は綺麗だね。よく手入れがされていて」
胸元まで伸びた沙彩の黒髪を丁寧に拭きながら、マリスは笑みをこぼした。
「そんなことは……。特に手入れもしていませんし。それよりも、詳細を教えて下さい。それと、マリスさんは何者なんですか?」
「何者って……。俺はエグマリスだよ。占いで定められたサーヤの夫」
拭く手を止めずに答えたマリスに「そうじゃなくて」と、沙彩は返す。
「その占いで定められたとか、マリスさんの妻とかって何ですか?」
「占いは占い師を通じて託される神からのお告げだよ。そのままの意味でね」
このアマルフィア王国では、建国時から神託や占いを重視されてきた。
占いや神託を重視しているのは、この世界でもアマルフィア王国だけである。
それは、この国の初代国王の誕生に由来してるからであった。
アマルフィアの初代国王は、元はどこにでもいるただの人間であった。
ある時、神からのお告げである「神託」が聞こえるようになり、それを元にこの国を建国した。
この地を開拓して、街を作り、街道を作り、政治体制を整え、他国との交易を栄えさせた。
建国に際して、迷いが生じた時は、必ず神に尋ねるようにした。
神の判断は正しく、神が下した判断に従うと必ず良い結果になったからだった。
「けれども、必ずしも神が俺たちが望む神託をくれるとは限らない。欲しい時に必要な答えをくれないことさえあった。そこで目をつけたのが、占い師による占いだった」
神託がもらえない時や、その神託が本当に正しいのか知りたい時、神の代わりとなる存在が必要だった。
そこで用いられたのが、神とは異なる人間の視点から未来を見る占いであった。
国の重鎮たちは占い師を集めると、その中から一人の占い師を宮廷占い師として重用した。
その占い結果もまた、神のーー国の決定としてきた。
こうして、アマルフィア王国の基盤が出来上がると、以来、アマルフィア王国と王家では神託と、神託に準ずるとされる占い師による占いを重視されるようになったのだった。
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