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「神託と占いで成り立ってきたアマルフィアには、他の国とは違う特徴があるんだ」
「特徴……ですか?」
沙彩の後ろに回って、髪を拭いてくれるマリスを振り返る。
目が合ったマリスは小さく頷いた。
「この国の国民はね。五歳になると、必ず占いを受けることになっているんだ。身分に関係なく」
アマルフィアの国民は、初代国王に倣って、五歳になると占い師を呼んで、将来を占ってもらう。
貴族や王族はお抱えの占い師を自宅に呼び、平民は町や村の長や代表にお願いして占い師を呼んでもらうことになっていた。
五歳の時に受ける占いは、国の法律で代金をもらってはいけない決まりとなっているので、占い師たちも依頼があれば、無償で占ってくれるのだった。
「当然、五歳になった後も占いを受けられるけど、お金がかかってしまってね。平民や貧しい人たちは五歳の占いしか受けないんだ。
けれども、貴族はそれ以降も五年ごとに、占いを受けるんだ」
一部の貴族や王族などの資金に余裕がある者達は、その後も五年毎に将来を占ってもらうことになる。
五歳の次は十歳、その次は十五歳になった時に占ってもらうのだった。
「じゃあ、占いの結果通りに、生きることになるんですか?」
「そうとは限らないかな。占いはあくまで参考として。どんな人生かは、その人自身が決めるんだ」
沙彩の毛先に残っていた水気を取り終わると、マリスは一度離れて、机から櫛を持ってきた。
「その人自身が?」
「ああ。だって、例えば、将来は幸せになれないっていうのを知って、そのまま生きていくのは嫌だろう。抗いたくもなるし、別の人生を歩みたくなる」
もし最初に聞いた占い結果が嫌なら、それに抗うように生きればいい。
そうしたら、もしかすると、次の占いでは別の未来が見えるかもしれない。
「それは、そうですが……。それなら、マリスさんの占いは、どんな結果だったですか?」
「俺はね、五歳の時から、ずっと同じ結果なんだ。……普通は、少しずつ変わるんだけどね」
マリスはまた沙彩の後ろにやって来ると、伸ばし途中だった黒髪を櫛で梳いてくれる。
止めようかとも思ったが、あまりにも手際が良く、優しく梳く手が気持ちも良いので、そのまま任せることにする。
「同じ結果ですか?」
「俺の占い結果はね……」
沙彩が振り返ると、マリスは櫛で梳かした一房を手に取っていた。
『将来、異なる世界から、一人の女性がやって来る。その女性を姫として大切にして、自分の妻として迎え入れよ。そうすれば、幸せが訪れる』
「そんな、結果だったんだ」
そうして、マリスは手に取っていた一房に口付けると、笑いかけてくる。
沙彩は顔を赤くすると、顔を背けたのだった。
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