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目覚めた先は
むせ返るような土と草の臭いが鼻をつく。
沙彩はそっと目を開けたのだった。
「ここは……?」
身体を起こすと、どうやら森の中に倒れていたようだった。
周りは、木々に囲まれて、上を見上げると木々の上を数羽の鳥が飛んで行った。
「痛っ!」
ズキッと左腕に痛みが走って、沙彩は黒色のカーディガンの袖を捲る。左腕が赤く腫れていた。どこかにぶつけたのだろう。
(痛みを感じるって事は、死んでないの?)
自分の身体を見下ろすと、服は先程まで着ていた服と全く同じであった。
黒色のカーディガンに、膝下まで丈のあるお気に入りの空色のワンピースも。持っていた鞄も近くに落ちていた。
何も変わっていなかった。けれども。
「エレベーターの中にいたはずなのに、いつの間に森の中に……?」
沙彩が呟いた時に、ガチャガチャと複数の音が聞こえてくる。
「この辺りにはいないようです」
「おかしいな……。この辺りに落ちたと報告があったはずだが……?」
耳をすますと、数人の男達が日本語で話しているようだった。それなら、ここは日本なのだろうか。
(良かった……。ここがどこなのか聞ける)
言葉が通じるなら、ここがどこか教えてもらえるだろう。ついでに保護してもらえる。
沙彩がなんとか立ち上がった時だった。
続いて聞こえてきた男達の言葉に、沙彩はギョッとする。
「誰にせよ。見つけたら連れてくるようにとの王子のご命令だ」
「王子が産まれてからここ数年、来るのは男ばかりだったからな。そろそろ、女が来てもいいはずだが……」
若い声をした男が「あの」と、話し出したのだった。
「女だったら、王子は娶るのでしょうか?」
「さあな。王子のお眼鏡に適えばいいのだが……」
「お眼鏡に敵わなければ……?」
「それは……」
(女だったらって……。まさか、私も?)
もし、彼らが探している女が沙彩だったら、捕まったら最後、王子とやらに差し出されるのだろうか。
こっそり鞄の中に入っていたスマートフォンの画面を見ると、電波は圏外になっていた。
つまり、助けてもらうには、そこで話している彼らに助けを求めるか、自力で森から出るしかないようだった。
(逃げた方がいいよね……?)
沙彩は男達に背を向けると、そっと歩き出す。
けれども、沙彩の気配を感じたのか、数歩行ったところで男達に気づかれてしまった。
「誰かいるのか!?」
その言葉を機に、沙彩は脱兎のごとく、走り出したのだった。
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