寂しいなら

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「まだ緊張してる?」 「してないです……!」 「本当? サーヤの心臓はこんなにも大きな音を立ててるよ」 意地悪く言ったマリスの手が、いつの間にか沙彩の胸元に触れていた。 自分の手を払ってマリスの手を振り解くと、振り解かれた手が今度は沙彩の顎を掴んでくる。 「やっぱり、緊張しているんだよね?」 目を細めたマリスの艶やかな唇が開かれる。沙彩が目線をやや下に逸らして小さく頷くと、マリスの唇が笑みを象ったようだった。 「サーヤは素直だね。そんなところもとても魅力的だ。……触れてみたくなる」 「ふっ、触れて……!?」 驚いた拍子に起き上がってしまい、沙彩は顔を赤く染めながらその場で俯く。そんな沙彩の様子がおかしかったのか、身体を起こしたマリスに小さく笑われてしまい、沙彩はますます真っ赤になったのだった。 「ねぇ、サーヤ。触れてみてもいい?」 「ダメです! ダメ!」 「どうして? この部屋には俺たちしか居ないんだ。恥ずかしくなんてないだろう。俺たちは占いによって導かれた関係なんだ。いずれは深いところまで繋がる事になる」 砂糖の様に甘いマリスの声に、沙彩の胸はますます激しく音を立てる。沙彩は俯いたまま必死に頭を振るが、それに気づいているのかいないのか、マリスの甘い声は部屋に響き続けた。 「それにサーヤはこれまで会ったどの令嬢とも違うんだ。こんな令嬢にはなかなか会えない。いや、会えないと思うんだ」 「マリスさん……」 「もっとサーヤの事を教えて欲しい。深いところまで……」 その言葉と共にマリスに両腕を掴まれて、沙彩は目線を上げてしまう。すると、すぐ目の前にエメラルド色に輝く両目があり、驚いた沙彩は顔を上げてしまう。 これがマリスの狙いだったと気づいた時には、沙彩の唇は塞がれていたのだった。 「……っんん!」 貪る様にマリスに口付けられて、沙彩は息が出来なくなる。わずかにマリスが唇を離した隙に息を吸うと、またマリスは唇を合わせてきたのだった。 今度は長く口付けられて、だんだん頭の中がぼうっとしてくる。次第に高鳴っていた沙彩の胸は音が小さくなっていき、ほとんど鳴り止んだ頃になって、ようやくマリスは唇を話してくれたのだった。 「緊張は収まった?」 「……」 沙彩が何も答えないでいると、マリスは沙彩の胸元に耳を付けて胸の音を聞こうとしてくる。我に返った沙彩がマリスの両肩を押し返すと、渋々ながらマリスは離れてくれた。 「こ、こういうのは軽々しくやっちゃ駄目です……」 蚊の鳴く様な声で沙彩が言うと、マリスは意味が分からないという様に首を傾げる。 「もしかして、嫌だった?」 「だって、こんなの……こんなの好きな人とやるべきものです。私なんかじゃない……」 泣きそうになって、膝の上で掌を握ると涙を堪える。すると、マリスはバツが悪い顔をすると、「ごめん」と謝罪を口にする。 「今のはちょっと性急だったね。ごめんね。明日の緊張を解すつもりがやり過ぎた。今度こそ何もしないから横になって」 再び沙彩がベッドで横になると、マリスは慣れた手つきで掛布を直して、肩まで掛けてくれる。柔らかい枕と手触りの良い寝具に、だんだんと心が落ち着いてくる。 マリスは手近な椅子を持って来ると、沙彩の横に座る。そうして、沙彩の額にかかっていた前髪を払ったのだった。 「お詫びに寝物語を聞かせるよ。そうだな……俺がサーヤ達の世界に行った時の話なんてどう?」
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