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アマルフィア王国は、代々、アマルフィア王家により形成された王政国家である。
国王の直下には国の秩序を守る騎士団の長と、国の財政や法律を担う文官の長がおり、政治はこの長達を中心とした、騎士団と文官の代表から成り立っている。例え、王国に古くから住まう貴族といえども、そう簡単に口出しは出来ない。
それが出来るのも、この国が長い事、大きな争いが起こっておらず、平和を維持されているという証だろう。
良好な関係を築けた理由の一つに、アマルフィア王国は、長い間、周辺諸国と良好な関係を築いており、他国を侵略する必要が無かったからである。
アマルフィアには、国の財政の大半を担う資源が豊富であり、農業、工業、水産業、そのほぼ全てが豊かな自然から得る事が出来た。
大きな自然災害や人為的災害もこれまで起きたが、そこから更に技術や産業も発展していき、今では各貴族が治める領地にまで、王国発祥の卓越した技術や産業は浸透していたのだった。
古の時代には、それらの資源を狙って他国が侵略して来た事もあるらしいが、数百年前に友好条約を結んでからは、平和な日々が続いているらしい。
「アマルフィア王国……? そんな国名、聞いたことがありません」
マリスからアマルフィア王国について簡潔に説明をされるが、首を振る事しか出来なかった。
そんな沙彩をマリスは、「仕方がないよ」と苦笑した。
「ここは、サーヤが住んでいた世界とは異なる世界だからね」
「えっ……!?」
足元の石に足を取られそうになった沙彩を、マリスは転ばないように支えてくれる。
「この国では時々あるんだよ。異なる世界から、やって来てしまう人がね」
きっかけは人それぞれらしいが、沙彩のように地震などのきっかけもあれば、気づいていたらこの世界に迷い込んでいたという人も過去にいたらしい。
「反対に、この世界の人が何らかのサーヤ達の世界に行ってしまう事も珍しくないんだ」
「その人達は、この世界に帰ってこれたんですか? 勿論、この世界に来てしまった私達もですが!」
この世界に来れるなら、帰る方法もあるだろうとサーヤは目を輝かせるが、マリスは考えているようだった。
「そうだね……。この世界に戻って来た人もいれば、サーヤ達の世界から帰って来なかった人もいたかな。この世界から、元の世界に帰って行った人もいれば、自らこの世界に残った人もいたけど」
「じゃあ! 帰れるんですね!」
「帰れなくはないよ。ただ、条件があるだけで」
山道は終盤に差し掛かっていた。もうすぐ、麓に到着するだろう。
「条件?」
「この世界に来た人達は、誰もが何かしらの使命を持っているらしい。それを果たせば、帰れるようになるとか」
「使命……?」
そんなものがあっただろうかと、この世界に来る直前を思い出そうとする。
エレベーターに乗っていると、地震に巻き込まれた。目を覚ますと、先程の森の中にいた。その間、誰かに、何かを言われた覚えは無かった。
「私の使命は、なんだろう……?」
チラリとマリスを見上げると、苦笑しつつ首を振った。
「それは、俺にはわからない。どんな使命を持っているかは、その人にしかわからないって聞いている」
沙彩が果たすべき使命は、沙彩にしかわからない。
つまり、自分が果たすべき使命は、自分で見つけなければならない。
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