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(私の使命って、なんだろう……)
急に黙っただろうか。マリスは「大丈夫だよ」と、頭を撫でてくれた。
「いくらでも、俺のところにいていいからね。……俺が必ずサーヤを守るから」
「あ、ありがとうございます……」
頭一つ分大きいマリスに撫でられて、嬉しいような、恥ずかしいような、そんな気持ちになる。
(マリスさんは優しくしてくれる。でも、早くその使命を見つけて、果たさないと。逆にご迷惑がかかるかも……)
そもそも、マリスとは出会ったばかりで、彼がどんな人物なのか知らない。
信頼に値する人物なのか、本当に沙彩を守ってくれるのか。知らない事ばかりだった。
この国の騎士らしいが、それも本当なのかどうかーー。
「さあ、もうすぐ馬を停めている場所に着くよ。そうしたら、近くの街まで、すぐだからね」
やがて、坂道の途中に開けた場所が見えてくる。すると、そこには紐に繋がれた白馬が一頭停まっていたのだった。
「待たせたね。ジョセフィーヌ」
ジョセフィーヌと呼ばれた白馬は、マリスを見ると鼻を擦りつけてきた。マリスは「くすぐったいぞ。ジョセフィーヌ」と言いながらも、嬉しそうにジョセフィーヌを撫でていたのだった。
少し離れたところで、そんな一人と一頭を見つめていたが、やがてマリスは気づいたように沙彩を手招きする。
「サーヤもこっちにおいで。ああ、それとも馬を見るのは始めて?」
「始めてでは無いですが、その、あまり馴染みがなくて」
子供の頃、牧場で本物の馬を見た際に、乗馬体験をした事があるが、大人になってから本物の馬を間近で見た事は無かった。
沙彩が戸惑っていると、マリスは安心させるようにそっと微笑む。
「大丈夫。ジョセフィーヌは大人しい子だよ。雌ということもあって、気性も荒くないんだ」
「さあ」とマリスに勧められて、沙彩はおずおずとジョセフィーヌに近づく。
おっかなびっくりジョセフィーヌの鬣に手を伸ばすと、ジョセフィーヌは一瞥しただけで大人しく撫でられるままになったのだった。
「温かい……」
ジョセフィーヌの温かさが胸に沁みる。緊張で固くなっていた心が柔らかくなって、安心したように泣きたくなった。
グッと涙を堪えていると、沙彩の様子に気づいたのかジョセフィーヌが顔を寄せてきた。
沙彩はジョセフィーヌに頬を寄せながら、涙を堪えて撫でたのだった。
「ジョセフィーヌと仲良くなれたようだね」
ジョセフィーヌを撫でていると、マリスがやって来た。
「はい。おそらくは」
「少し妬いちゃうな」
どういう意味なのか聞き返す間も無く、マリスは木とジョセフィーヌを繋いでいた紐を外した。
すると、マリスはジョセフィーヌにひらりと跨ると、沙彩に手を伸ばしてくる。
「おいで、サーヤ。ジョセフィーヌと一緒なら、すぐに下山できるよ」
マリスの手と、沙彩を誘うように見つめてくるジョセフィーヌの顔を見比べながら、「でも」と、沙彩は戸惑う。
「私、馬に乗ったのは子供の頃だけですし、今は昔とは違って体重も重いですし……」
「大丈夫。サーヤは軽いから。言っただろう。俺が必ずサーヤを守ると」
「でも……」
マリスは手を伸ばすと、沙彩の手を取る。
「……俺を信じて」
顔を上げると、深緑色の瞳と目が合った。
沙彩がこくりと頷くと、マリスは沙彩の身体を引っ張って、自分の前に座らせてくれたのだった。
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