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「それじゃあ、行こうか。しっかり掴まっていてね」
ジョセフィーヌが嫌がるから、手綱は強く引っ張らないように、とマリスは言い含めると、ジョセフィーヌに合図を出す。
ジョセフィーヌはゆっくり歩き出すと、そのまま足場の悪い山道を下っていった。
「よしよし、その調子だ。ジョセフィーヌ」
慎重に指示を出すマリスの姿を、沙彩は眺めている事しか出来なかった。
(こうして見ると、やっぱりマリスさんってかっこいい……)
さっき抱き留めてもらった時も思ったが、間近で見たマリスは、これまで見てきた男性の中で、飛び抜けて端正な顔立ちをしているように思う。
元の世界のモデルさんや俳優さんよりも魅力的で。
例えるなら、まるで、白馬に乗った王子様のようでーー。
(て、何を考えているんだろう)
マリスの事を何も知らないのに。
そうやって、マリスを眺めていると、不意に視線を落としたマリスと目が合う。
沙彩は反射的に目を逸らしたが、マリスはフフッと小さく笑ったのだった。
「大丈夫。ここを降りたら街まですぐだから。それよりも、俺ばかり見てないで、しっかり前を向いていて。ああ、舌を噛まないように気をつけてね」
沙彩が頷くと、ジョセフィーヌに合図をしたようだった。
スピードを上げると、ジョセフィーヌは一気に駆け出す。
沙彩は言われた通りに、舌を噛まないように口を閉じると、正面を見続けた。
山道を降りると、息つく暇もなく、ジョセフィーヌは、遠くに見えていた街に向かって整備がされた道を駆けていった。
どうやら、山全体が森になっていたようで、迷いの森と言われていたコルヒドレの森は、どんどん遠ざかっていったのだった。
「この辺りは、昔あった戦争の影響で道が整備されているんだ」
街が近づいてくると、ジョセフィーヌのスピードをやや落として、マリスは説明してくれた。
「その影響もあって、コルヒドレの森付近には建物が少ない。今向かっている街も、元は戦争の時に騎士団の拠点になって、その後、移民を中心に住みついて出来た街なんだ」
「そうなんですね……」
どうりで、コルヒドレの森から街まで建物が少ないと思った。
沙彩はふと気づいて、マリスを振り返る。
「もしかして、コルヒドレの森が迷いの森と言われているのも、戦争が関係しているんですか?」
例えば、戦争で死んだ者の霊が森に入った人を迷わせるとか。
そう思って言ったのだが、マリスは首を振ったのだった。
「う〜ん。その可能性は少ないかな。コルヒドレの森が迷いの森と言われているのはね。森が異界と通じていると言われているからなんだ」
「異界ですか!? それって……」
沙彩が言わんとするところをマリスはわかったようだった。深く頷いてくれた。
「ああ。沙彩の様に、異なる世界から来た者があの森に現れたり、反対にあの森に入ったこの世界の者が異なる世界に行ってしまったりするんだ」
異なる世界に入ってしまったり、異なる世界に来てしまったりする者が多い事から、普段はコルヒドレの森は立ち入り禁止となっている。
誰かが森に入り、また誰かか森に現れたら、すぐに保護出来るように騎士団が常時監視をするほどであった。
「実はここ以外にも、いくつかそういう場所があるんだ。あとは、急にその場所か出来る事もね」
「じゃあ、頻繁に異なる世界から人がやって来るんですね」
「そうだね……。周辺諸国では多い方かも。何故かね」
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