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 そこから約1ヶ月半は怒涛のように過ぎていく。  互いの両親への報告。これには恭二の母、沙苗が涙を流して喜んだ。派手な女遊びで荒れるほどめぐみに焦がれた放蕩息子が、その初恋を実らせた。気心知れた友人の娘との縁談なのも相待って、本当に喜んでくれた。  もとより顔見知りなので会食形式で結納を済ませると、最短で空いてる12月に式場を押さえたことで死ぬほど苦しむことになる。短くとも半年は掛ける結婚式の準備を一気に片付けることになってしまった。  そんな中、めぐみは仕事面でも広報室への異動が決まり、産休に入る先輩社員から引き継ぎと指導を受ける日々がスタートした。  恭二はオーナーとして新しい店舗の契約がまとまり、2号店の出店に向けた準備がその時期に重なった。  その上ストーカーとのやり取りも発生し、示談を受けるか裁判に持ち込むかで、ここでもドタバタする羽目になった。 「うー。最近ゆっくり出来てないよね」 「あー。目まぐるしいってこういうことだな」  結婚式を間近に控えた11月下旬。恭二のマンションのベッドに寝転び、全身脱力して疲労困憊。そんな二人の関係は未だにキス止まりの清いままである。 「厄介な新居探しが残ってるって知ってた?恭二」 「面倒だけどいつまでも別居の通いは寂しいよね」  そうなのだ。バタバタし過ぎて転居の手配まで手が回らない。  恭二はゾンビのように立ち上がってズルズル歩くとタブレットを持ってベッドに戻る。 「まずは新居を借りるか買うか、どうしたい?」  うつ伏せになって肘をつき、タブレットで不動産情報を検索する。 「今住んでるエリアが理想だよね」  同じようにうつ伏せで肘をつくとタブレットを覗き込んで恭二の顔を見る。 「めぐみの会社に近くても俺は大丈夫だよ」 「あっちは高いし住む場所じゃないよ」 「そう言えば道香ちゃんとマサの家も便利な場所だよなー」 「ああ!そうだね」 「あそこ空いてないのかな?」  あそこだと買うことになるけどと恭二はめぐみを見るが、私もそれなりに貯金はあるしと乗り気の返事が返ってくる。 「ちょっと聞いてみる?」 「うん。あそこじゃなくてもあの近辺は便利で良いんじゃない?」  めぐみはスマホを取りに立ち上がると、恭二同様ゾンビのようにズルズル歩いてベッドに戻る。  手早くメッセージを打つと、すぐに道香から返信が来る。 「まさかの空いてるらしいよ?どうする」 「確かマサの友達が不動産屋なんだっけ」 「そうだった気がする。はい」  要るような気がしてたと恭二のスマホを手渡す。 「ありがと」  恭二がマサにメッセージを送ると、こちらもすぐに返信が来る。 「明日はなんも予定無かったっけ?」 「私はないけど。恭二は2号店の打ち合わせとかないの?」 「夜だから昼は空いてる」 「まさか明日物件見にいくの?」 「善は急げですよ奥さん」  恭二はめぐみにキスをすると、マサにメッセージを送って打ち合わせを始める。  めぐみも道香にメッセージを送り、そこに決まればご近所だねと、賑やかなやり取りをする。 「マサが今確認とってくれて、明日も付き添って取り持ってくれるらしいから内見して契約かな」 「本当に買う?大丈夫?」 「道香ちゃんが近いと嬉しいでしょ」 「なにそれ愛情しか感じない!」 「それ喜んでるんだよね?」  二人で声を出して笑うと、めぐみが面倒そうに溜め息を吐く。 「道香が引っ越し手配、結構苦労したって言ってた」 「そうか、退去の申請とか色々あるよね」 「明日まとまったら、年末解約で申請しないとね」  まだバタバタするよとめぐみが嘆く。
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