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 そして結婚式当日、前日に一日がかりで荷造りしたトランクケースを結婚式の会場に運び入れると、ドレスとタキシードに身を包んで、写真撮影の後で式のリハーサルを行う。  めぐみの父、克之はリハーサルだというのに、緊張してガチガチでなかなか歩調が合わない。 「お父さん!ロボットでももっと滑らかに動くよ」  めぐみは爆笑して克之の肩を叩くと、それで緊張がほぐれたのか、三度目でようやく歩幅と歩調が合う。  恭二へ引き渡す手順を確認して、そこから指輪交換、ベールアップ、誓いのキスは身長差もあるので、唇ではなく額に受けることに決める。  一通り内容を決めて、最後にもう一度ノンストップで一連の流れをおさらいする。  ブライズルームに戻って談笑していると、あっという間に挙式の時間が迫り、佳子や沙苗たちは先にチャペルに向かう。そのしばらく後に恭二も先に部屋を出る。  克之はボソリとこんなに早くお嫁に行くんだね。あっという間に大人になったねと愛おしそうにめぐみの手を握る。 「お父さんはもっと早くお母さんをお嫁に奪ったでしょ?」  佳子は22で結婚したはずだ。 「そうだね。おじいちゃんもこんな気持ちだったんだろうなあ」 「そうよ。花嫁の父親はみんなそうだと思うよ」  ドアをノックしてスタッフが入ってくる。  チャペルに向かい、克之の緊張をほぐしながらこっちの足からだよ?と笑ってスタンバイする。  リハーサルどおり挙式を済ませると、挙式に参列した親族やゲストを交えた記念写真の撮影を終えて、今度は披露宴の手順をおさらいする。  招待客だが道香はもちろんのこと、会社関係は有休を勧めてくれた先輩の森元を含めた広報室の同僚数名と上司、山中をはじめとした受付の元同僚と上司、その他学生時代の友人など、めぐみ側の出席者が親族を含めて30人ほど。  恭二の方もマサを含めたアスタリスク時代の仲間や、秀彰を含めたバチェラーパーティーを開催した悪友たち、ジュールのスタッフは後日店でミニパーティーを開いてくれるというので、オープン当初からのスタッフ数名と親族を含めて同じく30名ほど。  披露宴が始まると、めぐみ側の来賓が大手勤務の美人揃いなことで、恭二側、主に秀彰たち悪友は異様な盛り上がりを見せていた。  お色直しは二回。めぐみは面倒なのでしないと断ったのだが、絶対着替えるべきだと恭二と母二人が譲らず、面倒な着物とラベンダーのドレスに着替える羽目になった。  披露宴開始後の乾杯と食事開始の直後に、一度目は着物へのお色直しをして、テーブルラウンドはバルーンスパークにした。  ケーキ入刀からのファーストバイトは、互いに悪ふざけで一口で食べ切れないサイズをとって会場の笑いを誘った。  ただでさえお祝いに来てくれたゲストとの写真や挨拶などで、楽しみにしていた食事も食べることがままならないのに、お色直しのせいで隙間の時間がない。 「腹減ったよーひもじいよー」  ブライズルームでラベンダーのドレスへの支度中、パサパサのサンドイッチを頬張ってメイクや衣装を着替える。 「本当、酒ばっかり注がれて食事を食べる暇がないね」 「だからお色直し要らないって言ったのに」 「ダメだよ!結婚式は人生でこの一回限りなんだから」 「あら?本当に一回で済むかしら?私を飽きさせない自信が随分とお有りのようですわね」 「ちょっと!結婚式の晴れの日になに物騒なこと言ってんの!冗談でもダメでしょ」 「ははは!ていうか恭二も正直着替え面倒でしょ?」 「面倒?そんなわけないじゃない。めぐみと一緒に立つのに恥はかかせられないよ」  そんな会話をしつつ、ラベンダーのドレスで会場入りすると、友人代表のスピーチや余興などで会場が盛り上がる。  めぐみ宛のメッセージはもちろん道香が担当だ。恭二側は秀彰だったが、心配をよそにユーモアは混ぜつつも、きちんとした内容で安心した。ガチで叩き込んだ正拳突きが功を奏したのだろうか。  親への手紙の朗読は割愛し、両親への花束贈呈と、恭二の父、浩康の謝辞、恭二の締めの挨拶を以て披露宴は無事終了。  会場の外で、新郎新婦側の招待客にお礼の挨拶と、別々の詰め合わせプチギフトを渡して見送りを済ませると、取り置いていたブーケは道香に渡した。  バタバタと二次会用のホルターネックのイブニングドレスに着替える。シフォン生地の色はネイビーだ。恭二もそれに合わせたネイビーの三揃いのスーツを着る。時間は夕方5時半。  忘れ物がないかしっかりと確認すると、大きなトランクケースを抱えて二次会の会場へ移動する。  めぐみはこの日のための12センチの厚底ハイヒールを履いているのでそろそろ足がキツい。  夕方6時からの二次会はカジュアルなパーティーだ。二次会から参加した友人たちに挨拶を済ませると、既婚者の幹事の計らいで、どうせまともに食べられなかっただろうからと、めぐみと恭二はそこでようやくがっつりとご飯を食べることができた。  幹事が企画したプログラムが進む中、あちこち席を回って先輩や元同僚、友人とも会話を弾ませるうちにあっという間に時間が過ぎる。  夜9時。三次会は希望者のみ。  衣装はそのままで、トランクケースを引き摺り入店。  道香とマサも来ていたが、他の参加者の中にはこの披露宴が出会いの場になりそうな男女がちらほら目立つ。恭二ら仲間内が懇意にしているバーを貸し切って、お酒がメインのパーティーとなった。  夜11時。四次会は新郎新婦不在でカラオケに繰り出すらしかった。そんなメンバーに見送られ、明日の新婚旅行への出発に備えて空港近くのホテルに向かう。 「あー。バタバタしたー。結婚式ってこんなに体力消耗するもんなんだね」 「それなー。これは本当に人生で一度で充分だわ」 「ははは!確かに」  タクシーの後部座席で声を立てて笑うと、シートに身体を預けたまま、ホテルに着くまで今日の出来事を振り返って話に花が咲く。  夜11時半。ホテルにチェックインすると、甘い空気は何処へやら。疲れて果てた中で交代で風呂に入ると、バスローブのまま泥のように眠った。
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