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「そうだよ。カラオケの帰りさ、連絡先交換したろ?」
「ああ……」
葵に断られた一昨日、自分は渋々星野たちのカラオケに付き合っていた。佐和田というのは星野が狙っていた隣のクラスの女子。長くてゆるく巻かれた黒髪に色白で清純派な子だったのは覚えている。
「昨日、やっぱり気持ちに我慢できなくてさ告白したんだよ。そしたらオッケーもらえたわけ」
一昨日の帰り際、星野が藁にも縋る思いでその子の連絡先を交換したのを見ていたが、彼女が星野のことを好意的に思っていそうには見えなかっただけに、そこから昨日の今日でどうして付き合うことになったのか疑問だった。
しかし、人を好きになるって昨日だとか今日だとか関係なくて唐突のことなのだろうか……。
自分にはそんな恋い焦がれた相手なんかいた事がないから理解し難いけど……。と考えた時に一瞬だけ葵の顔が浮かんだ自分に驚いたが、それは一時の事で「てことだから!」と星野が勢いよく机を叩いてきて立ち上がる。
その衝撃で吃驚した亨の身体はビクリと跳ねて、先ほど考えていたことなど忘れ去ってしまった。
「今日から俺は彼女とお弁当を食べることになった」
机を叩いて注目を集めるほどの重要性がない星野の報告。お昼に挙っと彼女の手作りお弁当を食べているカップルは、構内のあちらこちらで見かけるので珍しくない。
そんなことで浮かれて鼻を伸ばしている星野はめでたい奴だと思っては「あーそう」と適当に相槌をうつ。
「ホント塩谷はつれないなー。塩谷だけに塩対応ってか?」
身の毛もよだつ程のオヤジギャグに鳥肌を立てながら、亨は星野のおでこを人差し指で弾いてやる。やられた当人は、「いてぇ」と額を両手で抑えて、脚をジタバタさせると悶えているようだった。
「そんなつまんねーこと言ってると折角できた彼女に振られるぞ」
「つまんねーって。あ、噂をすれば…」
悶絶していた星野の目線が教室の後方口の方に向けられ、亨も見やると桃色のノースリーブニットを来た女子生徒が立っていた。
星野の彼女の佐和田が笑顔でこちらに手を振っている。
星野は佐和田を見かけるなり嬉しそうに「じゃあ」と座席を立ち上がると真っ先に教室を出ていった。
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