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正直な感想を述べるのは裏表がない星野らしいが、女子は「可愛いよ」とか「似合っているよ」とか気の利いた言葉が欲しかったんだろうと何となく汲み取れた。
ネイルや香水が変わると逐一報告してくる
西田が典型的なそのタイプだからだ。
「変わらなくてもそれは、お前が悪い」
「そんなー。しおやー助けておくれよ。お前恋愛マスターだろ」
亨は深く息を吐いて頬杖をついていたが、星野は何度も腕を掴み揺らして縋ってくるので、だんだん可哀想になってきた。
きっと星野にとっては初めての彼女で、片想いして漸く通じた思いだから大切にしたいんだろう。
多少思いやりに欠けていたとしても馬鹿正直で一途で、楽観的な所はコイツのいい所だった。
「とりあえず謝ってみたら?彼女の変化に気づけないお前にも原因があるんだから」
納得したのかしてないのか「やっぱりそうだよなー」と腑に落ちないような顔をしていたが、すぐに「放課後、彼女に謝りに行ってくるかー」と呟いてはスマホを開いていたので、この件に関しては丸く収まりそうだった。
しばらくの沈黙の後で星野を観察していると彼女に振り回されても、何処か楽しそうな星野は本当に恋愛を楽しんでいるようで、亨にとっては輝いて見えた。
「お前さ、佐和田といて楽しい?」
「え?楽しいに決まってんじゃん」
亨の問いかけに顔を上げた星野は当たり前様に答えてきた。
「そう……」
「なんだよ」
「別に深い意味は無いよ」
「何、塩谷は楽しいとかないのかよ、あんな美人で大人な彼女」
「さぁーどうだろう」
どっちとも言えない微妙な反応をしたことで、星野は亨がつまらないと感じとったのか「お前って憎たらしいくらい贅沢なやつだなー」と皮肉ってきた。
贅沢なのかどうなのか分からないが、西田といて楽しいとか感じたことなんてないから、星野の気持ちがあまり理解ができない。
それよりも、葵先輩といる方が気持ちが浮つく感覚がある。
星野は「そんな塩谷に教えてやるよ」と急に上から目線で語り始めたので、先程まで恋愛マスターだの崇めていたくせに、亨は半ば呆れながら耳を傾ける。
「恋ってさー毎日その人のこと考えて、目を瞑って見てもさ、その人笑顔が浮んでくるんだよ。気づいたら連絡の返事とか待ってるし。会えたらすげぇ嬉しくなんの。ほら、塩谷も目瞑ってみろよ?西田の顔浮かぶだろ?」
星野に促されて、目蓋を閉じる。
浮かんできたのは、花のお手入れをして微笑んでいる葵の姿だった。
亨はそんな自分に驚き、バッと閉じていた目蓋開けると同時にポケットに入れていたスマホが振動した。
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