告白

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亨が名前を呼ぶと呼んだ背中は一瞬だけ振り向いたが、自分だと認識した途端に駆け出し始めた。葵なら止まってくれると思っていただけに、ここで逃したら一生葵の真意を聞けないような気がして、亨は何も考えずに更に距離が遠くなる背中を追う。 校門を抜け、学校の敷地内から離れる。 近隣の参道を抜けたところで葵は体力が尽きたのか立ち止まって胸を抑え、息を切らしているところを捕まえることができた。 亨も体育なんてサボりがちだし、長距離走ることなど滅多にしてこなかったので、体力が限界寸前だった。呼吸を乱しながらも、がっちりと葵の手首を掴む。 それでも抗おうとしてくる葵は顔を俯け、俺と目を合わせようとしてくれなかった。 「何で逃げんの、メールしたんだけど返事ないし」 息を大きく吸い、呼吸を整える。 葵も大分落ち着いてきたようだった。 「すみません……」 「昼のメール……」 「違うんです……違くないけど……亨くんには関係ないんです。忘れて下さい……」 葵の震えたような弱々しい声。 あのメールを忘れて下さいと言われるのは無理がある。メッセージを開いた時の高揚感、嬉々とした気持ちを亨は無かったことになど出来なかった。 葵に好かれるのは嬉しい……葵は俺の事をどう思っているのだろうか。ちゃんと本人の口から聞きたい。 「関係なくない。あのメール貰って正直嬉しかったし……」 俺が気持ちを話したことで、逃げることに観念したのか葵はゆっくりと顔を上げる。 耳が真っ赤になっているのが、この状況で不謹慎にも可愛くみえた。 葵は今にも泣きそうな表情で浅く頷くと「亨くん……僕のこと引かないですか…?」と聞いてきては、亨は迷わず首を縦に震る。 「葵の気持ちちゃんと聞きたい、聞かせてほしい……」 亨は真剣に訴えると葵のから一ミリたりとも目を逸らさなかった。一方で目線を合わせずに胸の前で強く握られる葵の拳。酷く怖がっているのが伝わってきた。 「分かりました……」と呟いた声は今にも消え入りそうで、今すぐに抱きしめて安心をさせたい気持ちに駆られる……。 自分のこれは何なのだろうか……。 亨は静かに葵の手を引くと現在地から10分ほど歩いた大きい公園へと向かった。
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