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「ごめん·····」
出来ればこれ以上のことが起こってほしくない。頭を下げただけで事が全て丸く収まってけれたらと願いながら、俯きがちに江藤の横を通り過ぎようとしたが、そう上手くはいかなかった。逃げようとしていることを感付かれたのか江藤の腕に遮られてしまう。
「何逃げようとしてんだよ。ぶつかったんだけど」
「だからごめん·····」
「気に食わねぇ」
江藤が根元に目配せをすると目の前の腕が引かれ、代わり根元が道を塞いで近寄ってきた。
「今日は花じゃなくていいのかな?」
持っている袋を指で差してくると腕に抱えていたジャージの袋を簡単に奪われてしまう。
葵は取り返そうと手を伸ばしたがひょいっと高く掲げられてしまう。借り物なのに彼の物を汚すようなことはしたくない。
何度か手を伸ばしたがその度に高く掲げられて、江藤に投げ渡されてしまった。
「返して」
唯、傍観して階段の手すりに寄りかかってる橋下を他所に階段に躓(つまず)きそうになりながら、江藤から根元へと交互にキャッチボールされる袋を必死に追いかけるがなかなか手が届かない。
キャッチボールから江藤の手元に戻ってくると、踊り場の上部の窓から外に向かって袋が飛んで行くのが見えた。
その場にいる全員が飛んでいく袋に目がいく。
「凌介、最高飛距離でたんじゃね?」
「わかる?俺ハンドボール投げの才能あるかも」
自分を揶揄ったところで満足したのか、江藤と根元が笑い合いながら、階段を下っていく途中で、とどめを刺すように「どけ」と言わんばかりに江藤に肩口を押され、よろけてはしばらく放心状態になっていた。
言い返すこともやり返すことも出来ずに
更にその後ろについて行く橋下と目が合う。
遠くで傍観して鼻で笑うだけの彼。
何故自分はいつもこうなってしまうのだろうか……。惨めな気持ちに浸っている場合でもなく、葵は校舎外へと投げ捨てられたジャージの存在を思い出し、慌てて探しに行った。
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