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「大藪のスマホゲット〜気持ち悪い美化委員くんは何を真剣に見てたのかなー」
根元が調子よく煽ってくるのを横目に我が物顔でスマホを弄る江藤に向かって必死に奪い取ろうと手を伸ばすが、意図も簡単に跳ね除けられる。
「だめっ·····!返して·····」
スマホを落した時の画面は亨へのメッセージを書いている途中だった。この文章を見られたら面白可笑しく揶揄われるのは目に見えていた。画面を目視したであろう江藤はと言うと指をスワイプさせる度に頬が緩み出す。
「お久しぶりです。亨くんが良ければ一緒にお昼食べませんか?だって。こいつと友達になるやつなんかいんのかよ」
亨くんに会いたくて真剣に考えていた文章を読まれて顔に火がついたように熱くなる。
「別に江藤くんには関係ないよ·····返してっ.......」
「関係ないは酷いんじゃない?俺たちいっつも遊んであげてるからダチじゃん?大藪くん?」
都合のいい時だけ友達という言葉を使ってくる江藤たちが心底腹立たしいが、自分に反抗する勇気や強さなんて持っている訳が無い.......。唯、言われるがまま言葉と身体の暴力を受け止めることしか出来ない。
江藤はニヤニヤと顔を緩ませながらこちらを見てくると明らかに文字を打っているような指の動きをし始めた。手を伸ばして取り返そうとしても根元に邪魔をされ、悪巧みを考えているような江藤の表情に、先程の熱は一気に冷めていく。
「何してるの·····」
この流れから江藤が亨くんへのメール画面を使って良からぬことを打ち込んでいるに違いなかった。変なことを送って亨くんに嫌われたくない.......。
「何打ってんだよ。凌介」
根元が葵の両腕を掴みながら江藤が打ち込んでいる画面を覗く。その画面を見るなり、根元の表情までニヤニヤと綻んでいくのがわかった。阻止しなければと指先を動かすが、根元の掴む力が遥かに強くて成すすべがない。
「こいつさ、小3くらいんとき俺のこと好きだって噂あったんだよ。そのせいで俺とばっちりくらってさ」
「うわまじ?きしょ」
「まじ。こいつと仲良くすると好かれるから気をつけた方がいいよ」
噂が噂。本当だけど嘘の話。
確かに小学生の頃は自分と江藤は仲が良かった。内気な僕の手を引っ張っては、率先して輪の中に誘ってくれたし、一緒にいてくれた。当時の自分も江藤のことは微かではあるが恋心を抱いていたが、告白をするだとかそれ以上のことなど考えてもなかったし、望んでもいなかった。
しかし、余りにも一緒にいすぎて、当時江藤のことが好きだったクラスの一番可愛い女の子を江藤が振ったのを期に江藤と葵はできているなどと良からぬ噂が立ち始めたのが全てのキッカケだった。
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