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この先の話を聞きたいような聞きたくないような·····。長い沈黙の中、葵の言葉を待っているこの時間が息苦しいとさえ感じる。
「送ったのは僕じゃないけど.......あ、あの.......嘘じゃないんです」
絞り出すかのように、一言一言紡いでいく葵に意識を集中しては、亨の鼓動は短い感覚でドクドクと波打っていた。
メールを読んだときの湧き上がる気持ちとともに微かな期待が過ぎる。
「亨くんに助けて貰った日から·····亨くんのことが·····好きになりました。僕と違って華やかででも優しくて····こんな僕でも普通に接してくれるあなたが好きです····」
葵の耳から首筋にかけて紅潮させながらも亨の瞳を捉えて告白してきた。嘘などとは疑わぬほどの真っ直ぐな眼鏡の奥の真剣な瞳で。
途端に騒ぎ出す胸の高鳴り。
先程、もしかしたら葵のメールは嘘のものだったらと焦りを感じていたのを忘れるくらいに率直に嬉しいと感じた。
葵に好きになって貰えて嬉しい·····。
大人しい葵が一生懸命に気持ちを伝えてくれる姿は亨にとっては可愛らしくみえた。
ふと、星野が言っていた言葉を反芻していた。まだかまだかと葵の連絡を待っていたのも、告白メールを見て待ち伏せしてでも会いたくて堪らなくて、漸く葵の姿を見た時高揚してぶあっと身体中の体温が上がったのも、
いざ告白されて今すぐにでも抱き締めたいと衝動的に胸が疼いたのも、これが恋というものなんだろうか·····。
西田に告白されたとき、こんなことは思わなかった。告白されて、何かに暗示られたように受け入れてキスをして·····。気づいたら恋人同士になってた。
そこに好きだとか嫌いだとか特別な感情は無い。だけど今は違う。
今すぐに抱き締めて「よく俺に告白してくれたね」って頭を撫でて慰めたい。
·····だけど、自分にその資格がないことは分かっていた。西田に対しての気持ちは冷めているとはいえども、恋人がいることには変わりない。そんな状態で自分のこの衝動を優先して触れていい相手じゃなかった。
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